2022年12月16日号 Vol.436

五嶋みどり、デビュー40年(1)
音楽を通して持続可能な社会を

1982年の大晦日、ズービン・メータ率いるニューヨーク・フィルハーモニックと協演、デビューを果たした11歳のヴァイオリニスト、五嶋みどり。以降、世界各地の著名な音楽家や楽団と共演、その名を世界に轟かせた。1992年には、日本で非営利団体「ミュージック・シェアリング(旧みどり教育財団東京オフィス)を、ニューヨークで「ミドリ&フレンズ」を創設し、音楽を軸にした社会貢献や国際交流に尽力。2007年、日本人初の「国連ピース・メッセンジャー」に任命された。

デビュー40周年を記念した書籍「道程」。2022年、日本で行われた40周年記念リサイタル・ツアー会場で配布された非売品で、秘蔵写真、エッセイ、対談などが収録されている。

国際連合(UN)の活動をPRするために選出される平和大使「国連ピース・メッセンジャー」。俳優のマイケル・ダグラスやレオナルド・ディカプリオ、音楽家のスティーヴィー・ワンダーやヨーヨー・マなど、現在13人の著名人が任命され活動中。五嶋みどりは、音楽を通して社会的に最も弱い立場に置かれた子どもたちへの教育を支援する。

「社会貢献に興味を持ったのは20歳の頃です。『コンサート』という限られた時間・場所では、実際に子どもたちと触れ合うことが難しい。彼らと『音楽の楽しさ』を分かち合いたい、思い出を作りたいと思ったことが、教育財団設立のきっかけでした」



現在、みどりが主宰する財団は、日本国内で特別支援学校の「楽器指導支援プログラム」や高齢者施設や病院などを対象に「訪問プログラム」などを行う「ミュージック・シェアリング」、ニューヨーク市内70以上の公立学校で音楽教育を無償提供する「ミドリ&フレンズ」、全米で経済的余裕のないコミュニティを対象にクラシック音楽への関心を喚起する「パートナーズ・イン・パフォーマンス=通称ピップ」、若者(ユース)で結成されたオーケストラに集中講義を交え、共演をする「オーケストラ・レジデンシー・プログラム=通称オープ」の4つ。それらの根幹である「ミュージック・シェアリング」と「ミドリ&フレンズ」は、今年30周年を迎えた。

2019年、HIVに感染した子どもたちを受け入れるカンボジアの孤児院を訪問

「20歳で立ち上げたのですが、振り返ってみると一体何を達成できると思っていたのか(笑)。今まで続けてこられたのは、支援者の皆様が私の活動を育てて下さったお陰です。世界がこんなにも進化し、地球狭しと宇宙にまで支配を広げ、権力欲に左右される人々の存在によって罪のない命が奪われています。私が設立した小さな財団が、素晴らしいサークルを、しかも30年間も同じ目標に向かい歩み続けてきたという事実に、達成感がよぎる時はあります」。一方で「足りないことは無限です」という。

「ミュージック・シェアリング」が行うプログラムの中に、みどりが若手演奏家を伴いアジアの国々を訪問する「インターナショナル・コミュニティー・エンゲージメント・プログラム(ICEP)」がある。これまでにベトナム、ラオス、モンゴル、インド、バングラディシュ、ネパール、ミャンマー、インドネシアなどを訪れており、各地での活動結果を日本の学校や施設に報告するツアー公演はすべて、協賛企業やみどりを含む演奏家たちのボランティアで賄っている。

みどり40年の歩みをDISCOGRAPHYで

「今でこそ、経済的に貧困とされる国や地域は、国連を筆頭に多くの非営利団体がサポートしていますが、10年前、私が訪れたアジア各地の貧困や差別は想像を絶するものでした。現在は、外国資本の投入や欧米・日本企業の進出などにより、まるで違う国へと変身し近代化しています。それでもまだ、人間的な生活を送れない人々、見捨てられた人々が存在するという現実。私はICEPの活動を通じて、『本物の音楽』は、あらゆる人々の心にバリアなく伝わるだけではなく、孤独から生まれる残虐性、自己放棄、トラウマから解放され、寄りそえる存在であることを知りました。ひとりの音楽家として、私が、音楽がなし得ることがある場所や国々を、これからも訪問し続けたいと思います」。文化・習慣・言語が異なる国々で共通するのは「子どもたちが純粋」だということ、音楽に触れたことで「子どもたちに変化が見られた」という場面に出会う機会が多いと話すみどり。「支援活動が継続できることに感謝しています」と続けた。(次ページへ)
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