2018年12月21日号 Vol.340

[第91回]
キャブドライバーの悩み相談室


皆さまお久しぶりです。9月からお休みしているこのコラムですが、正月号で臨時復活。今回は、夜シフトならではの珍しい客層について話そうと思います。
本当に時々ですが、一人で乗ってきてわざわざ助手席に座りたがるお客さんがいるのです。最近はカード決済がほとんどなので、目的地に着いて支払う段になると、この人たちは後部座席にしかないカード決済機を使うために移動しなければなりません。なぜそこまでして助手席に乗りたいのかなあと不思議に思うことしきりです。
最近も一人、20〜30代の白人男性をアッパーウエストからウイリアムズバーグまで乗せました。このお客さん、最初は後部座先に座っていて、唐突に「何の本が好き?」と話しかけてきました。ところが車内のインターフォンが故障していて、彼の声が僕には聞こえにくい。僕は運転しているので当然前を向いて話すので、僕の声も彼には聞こえにくい。
するとこの男性、途中で車を止めさせて、助手席に移ってきたんです。僕の隣に座って、「どんな本が好き?」としつこく聞いてくるので、「うざいなあ」と思いながらも、「日本の歴史本。坂本龍馬ものとかさ」と答えると、当然彼はちんぷんかんぷんですよね。
そうこうしているうちに本の話はどうでもよくなって、お互いの生活の話になったわけです。彼はオハイオ出身で、今中国人の彼女がいて、その子が勝手なので振り回されていると。別れようかなんて方向に話題がシフトするわけです。
僕が「長男だから大変なんだ」と言うと、彼も「僕も長男さ」と、お互いに「長男」「大変」という共通項で「ウンウン」なんて話があったりして。
要は、ものすごくプライベートな問題や悩みにまで及んで、ふかーい話をする羽目になることがあるわけです。この人、メーター額28ドルのところ、20ドルのチップをくれたので、きっといろいろ話してスッキリしたんじゃないでしょうか。
そういえば、若い女性を乗せて恋の悩みを打ち明けられたことも何度かあります。車内空間というのは個室なので、悩みを抱えているお客さんなどはぽろっと身の上話をしたくなるのかもしれませんね。僕は夜シフトなので、乗ってくるお客さんは適度にアルコールが入っていて、気が緩んでいるのかもしれません。
美容師さんは、心を許したお客さんからいろいろな話や相談事を聞くといいますが、キャブドライバーも似たようなもんだなと、最近になって気づきました。悩みというのは、「誰かに話して、聞いてもらう」だけで、解決しなくてもスッキリするものらしいですから。
(白石良一)



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