2023年5月26日号 Vol.446

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「今」を表現、未来へ繋げる

名倉 誠人
Makoto Nakura
マリンバ奏者

・出身:兵庫県

Photo © Misaki Matsuii

★マリンバとの出会い
母がピアノを弾いていたことで、小さな頃から鍵盤を触っていましたが、「最初の楽器」と言えるのはマリンバです。小学校3年の学芸会で器楽合奏があり、私はリコーダーを吹いていました。他の子が弾いていた「バス木琴」を聴いた時、その音が衝撃的で大好きになり、両親にその夜、マリンバを勉強させてほしいと頼みました。バス木琴は、マリンバとほぼ同じ音色なのです。

★マリンバの魅力
最大の魅力は音色。プロになってからは他の楽器には無い魅力を発見しました。マリンバは、クラシック音楽の歴史の中でも非常に「若い」楽器であるため、過去の偉大な作曲家による作品がほとんど存在しません。従って、現在、活動している作曲家たちとの共同作業で、新たな作品創りをしていくことが重要だと考えています。作曲家が、ペンを紙に落とす前から作品作りに関わることは、ある意味、音楽の真実と直面することになります。ピアノやヴァイオリンを演奏していたら、こうした状況に自分の身を厳しく晒すことは無かったでしょう。これは、マリンバを演奏していたからこその、素晴らしい経験だと思っています。



★言葉を超えたコミュニケーション
演奏家の私にとっての「コミュニケーション」とは、舞台上でひしひしと身をもって感じることだと考えています。COVID-19で対面でのコミュニケーションが取れなくなり、聴衆が目の前にいない状況で演奏会を行った際、「演奏とは演奏家からの一方通行ではなく、聴衆と一緒に創っているものだったのだ!」と開眼。配信での演奏会のつまらなさと言ったら…(笑)。加えて、共演者と音楽を通してのコミュニケーションは、言葉のコミュニケーションを越えた喜びを与えてくれるものだと思っています。

Photo © Shige Hikari

★発展し続ける「クラシック音楽」
クラシック音楽の歴史を紐解くと、西ヨーロッパの民族音楽だったものが、様々な文化の要素を取り入れ、現在では汎世界的な音楽となっています。私は、クラシック音楽を伝統音楽としてとらえるのではなく、これからも、異なった時代の息吹を取り入れ、様々な形で発展していく音楽だと考えています。現在、活動している作曲家たちと、我々の時代の音楽を創っていくこと。それによって、我々の時代を表現していくことが一番重要で、それを実現するのが私の望みです。

★NYを活動の拠点に選んだ理由
実際的な意味では、1994年にNYで大きなコンクールに優勝し、演奏活動が広がったことがあります。また、我々の時代の音楽をunapologeticに追求していくには、NYはとても素晴らしい街。NYの魅力は、伝統を尊ぶヨーロッパとは異なる点だと思います。

★フルート、朗読、合唱、映像とのコラボ作品
元々、他の芸術分野とのコラボレーションに興味がありました。ビブラフォン・フルート・朗読による「枕草子」、マリンバと混声合唱のための「森の三章」、マリンバと字幕・映像による「青柳ものがたり」など、どれも文学と強い関係性を持つプロジェクトで、発想の段階から私自身が考えました。「枕草子」は、日本の古典がアメリカ人作曲家の感性でどのように表現されるかという点が興味深い。「森の三章」は、日米英の三ヵ国の作曲家がそれぞれの「森」の物語を語る作品。「青柳ものがたり」は、木の楽器マリンバが、柳の精の悲しい物語に寄り添うような作品です。これらのコラボは、自分の表現力の幅を広げるだけでなく、聴衆にとっても、マリンバの新たな魅力を発見する機会となります。

★目指すもの
マリンバは、運動性やテクニックのみが前面に出てしまいがちな楽器ですが、それだけではなく、抒情性や色彩感を十分に発揮し、我々の心の奥深くまで表現できる楽器である、という点を追求してきました。そんな私の演奏家としての特性を理解し、作品を書いてくれる作曲家たちと、これからも新作創りを続けていきます。同時に、これまでに私のために書かれた多くの作品を、次世代の奏者たちに演奏していってほしい。優れた作品でも演奏されなければ、時代を超えて生き続けることができません。これまで、私のマスタークラスなどでもそれらの作品を取り上げていますが、これから、もっとできることを考えていきたいと思っています。

http://makotonakura.com
https://bio.site/makotonakura

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