2023年02月10日号 Vol.439

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自分だからこそできる表現

神楽岡 久美
KUMI KAGURAOKA
アーティスト

・出身:東京都

Photo by Yume Takakura

★医療従事者の両親に影響を受け「身体」に興味を持つ
小学生の頃、自宅には医療書が多く、図解を見るのが好きでした。普段見ることのできない体の中の構造がわかりやすく、また各部には名前や機能がある。「人体」の情報が整理された図解は学習用の生き物図鑑と同様に楽しいものでした。幼少期に両親と「人体の世界」を見に行き、初めて夏目漱石の、ホルマリン液で保存された実際の脳を見て衝撃を受けたのを覚えています。特に、器用だった父からの影響が強く、一緒に絵を描き、プラモデルなどを作りました。父が描いた図解が医療専門のテキストに載ったこともあったようです。その一方で、医療従事者は個人情報を扱うため、仕事の話は一切しませんでした。当時、自宅で父が一人静かにオペのイメージトレーニングをしているのを見るまで、医療系の家族の娘という認識は薄かったと思います。また、私の実家は大きな大学病院と国立病院、感染症研究所などの医療施設が集まった街にあり、思い返せば幼なじみも医療職の両親を持つ人が多く、家庭内だけでなく周辺環境においても無意識的に影響を受けていたかもしれません。



★「身体」とは感覚を持って外界と対話するためのツール
誰しもが持つ「身体」とは、感覚(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚など)を用いて、外界(身体を囲む空間)と、様々な角度で「インプットとアウトプット」を可能にしてくれるツールだと考えています。それが「神楽岡久美」というアーティストのフィルターを通し、その多角的なインプットとアウトプットが作品として可視化された時に、社会と作品との間で影響し合うことを対話としています。現在、進めているのが「美的身体のメタモルフォーゼ」をコンセプトに、人類誕生の歴史から、現在、そして未来の美的身体を推測し、それを生み出す装置の制作です。特に最近では、「装飾、拘束、欠損」というこれまで人間が美に対して拡張してきた人為的身体変形を再考し、様々な歴史や文化、宗教、ジェンダーを超越した新たな身体の美を問い、訴えかける普遍性のある作品へと昇華させることを目指しています。最も重要なことは、「神楽岡久美」だからこそできる表現、推測とは何かを考えること。これは、日本人の女性というバックグラウンドを持つ私が、現代社会に対してどのような視点を持ち、未来のビジョンをどのように描くかということが重要だと考えています。

★NYでの活動は、国際的な視点を持つ最初の一歩
私は「身体」を制作の軸に置く上で、様々な国を訪れ、現地の人との関わりの中でリサーチを体感的に行いながらこの制作活動に取り組みたいと考えています。ニューヨークにはヨーロッパによる植民地時代を感じるロケーションも多くありますが、文化発祥の地とも言われるダイバーシティ&インクルージョンであり、様々なバックグラウンドを持つ国民や移民のためのコミュニティ、多種多様な文化、歴史、宗教、言語があります。更に、アカデミックな面において芸術と他分野が共存する機関が多く、また世界的にも強力で歴史あるギャラリーや美術館、博物館があります。私はニューヨークでの滞在期間中、レジデンススタジオを拠点に活動を行っていたこともあり、各国から来たアーティストや様々なバックグラウンドを持つ訪問者と出会い、制作についてのディスカッションやプレゼンテーションを通し、日本だけにいては決して得ることのできない知見を広げることができました。国際的な視点をもつ最初の一歩に、ニューヨークで活動できていることがとても嬉しいです。

★目指すアーティストのかたち
2022年に初めて国外での活動を行い、芸術を通して様々な国のアーティスト、異なるバックグラウンドを持つ芸術関係者、さらに他分野の専門の方と出会いました。衝撃を受けることもありましたが、それは今まで自分が知らなかったこと、気づいていなかったことなのだと知りました。きっとそのようなことはまだまだあると思いますし、今後も国内外で活動を続けていきます。作品が自立し、様々な分野、国、時代を越え横断していけるほどの強さを持てるよう私自身、アーティストとして多くを学び実力をつけていきたいです。

www.kumi-kaguraoka.com
instagram.com/kumi_kaguraoka
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