2022年9月16日号 Vol.430

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目標となれるような存在に

岩井 麻純 Masumi Iwai
ミュージカル女優

・出身:名古屋

Photo by Shai Yammanee

★キャリアの始まり
小学5年生の時、所属していたダンスカンパニーのつながりで地元のミュージカルに出演。それまでは、「ミュージカルは何か」ということすら知りませんでしたから本物を観ようと、母親に劇団四季のライオンキングに連れて行ってもらいました。一目惚れでした。見入りすぎ、舞台が近づいてきているような感覚。その一晩で将来の夢が具体的になりました。大学4年生に上がる年、本場ブロードウェイを観るため、1ヵ月だけニューヨークを旅行。初めて観るショーは、アフリカ系アメリカ人が演じるライオンキング、手足が長くスタイル抜群の女優が演じるシカゴなど、それぞれ身体的特徴が異なった人物が、自分の持ち味を十分に出し切るからこそ表現できる「説得力」に気が付きました。単一民族が多くの人種を演じ分ける日本のミュージカルと大きく違う点に驚き、「本場の、本物のミュージカルに出演したい」と思いました。

★来米からコロナ禍まで
2015年春、大学卒業後に半年間バイトをして来米費用を貯め、10月にニューヨークのダンス学校「ペリダンス」に留学。いくつかの舞台を経験した後、「王様と私」(2018〜19年)の全米ツアーや、新作ミュージカル「FLY」(2020年)などにダンサーとして参加。少しずつ活動範囲が広がってきたところでパンデミックになり、すべてが完全にストップしてしまいました。特にミュージカルはインパーソンでないと成り立たない業界。ロックダウンで何も出来なくなった時、普段は忙しくて時間がかけられない基礎やテクニックの部分に、贅沢な時間を費やしました。新しい曲を歌えるようにしたり、家でバーレッスンをしたり、ランニングをしたり…。何もしないで過ごすことが苦手な「貧乏性」がコロナ禍では役に立ったと思います(笑)。



★ミュージカル「ファニーガール」出演
ブロードウェイに出演するためには、ユニオンメンバーであることはもちろん、演出家・振付家との仕事歴や、エージェントによるオーディションのアポイントメントがなければ、自らのパフォーマンスを見てもらえないのが現状です。「ファニーガール」では、一般公募で私が送ったビデオが振付家の目に留まり、オーディションに招待されました。とてもラッキーでした。出演が決まった時は、「夢が叶った、ついに頂点まで来た、もうこれ以外は何もいらない!」と、雲の上に登ったような気持ちに(笑)。開幕から数ヵ月経った今でも、周りの人から沢山の刺激をもらっています。それぞれの考え方や時間の過ごし方など、ココまで来たからこそ出会えた人たち、ココまで来たからこそ見えた新しい目標が沢山あり、ゴールだと思っていた雲の上に、もう一つ世界があるのを発見した感覚です。休んではいられないですね。

「ファニーガール」上演シアターの前で

★ブロードウェイの多様性と未来
現在、ブロードウェイではキャストのダイバーシティ化が話題です。これまで白人ばかりの作品が目立っていましたが、特にコロナ禍の「BLM(Black Lives Matter)」や「Stop Asian Hate」運動なども影響し、肌の色を超え、ストーリーを伝える動きが出てきました。英語が第一言語ではないアジア人の私が、「ファニーガール」に出演できたことは、人種やバックグラウンドの違いを越え、皆に、平等にチャンスがあるということを証明できたのではないでしょうか。「奇跡が起きた」から東洋人が採用されたのではなく、これからも継続し、今まで以上に多様性を取り入れたショーが続いて欲しいと願っています。

★日本人ミュージカル女優として
私がもっと若かった頃には、目標とするダンサーやミュージカル女優さんがいませんでした。漠然とダンサーになりたい、ミュージカルをやりたいとは思っていましたが、具体的な像や相談する人がいない。今回、私がブロードウェイに立ったことで、ブロードウェイをもっと身近に感じてもらえたり、若い世代の人たちから気軽に相談を受けられるような存在になれれば…と思っています。

★目指すもの
やっとココまで辿り着き、このレベルのコミュニティーに所属することができて、見え始めたものがたくさんあります。少しでも長く今の場所に存在し、いろいろな可能性を広げたい。自分の身体を限界まで、パフォーマーとして使い果たしたら、その経験を生かし、新たな作品制作や、ブロードウェイで学んだことを日本へ伝えたいと考えています。それまでは、可能な限り多くのことを経験し、知識を増やし、自分をエデュケートし続けていきます!

masumiiwai.com
instagram.com/mmmasssun

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