2022年8月5日号 Vol.427

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退路を断って前進する

明石 もも
MOMO AKASHI
脚本家/作詞家/オペラ作家

・出身:東京都

★キャリアの入り口
脚本/作詞家の入り口は演劇でした。小学校の友達がミュージカルに出演していたのですが、彼女の発表会を鑑賞する、という感覚で「アニー」や「ライオンキング」を観に行ったことから舞台に興味を持ち、中学で演劇部に入部。自分たちで台本を作り、物語や登場人物を想像する楽しさを知ったことが、脚本/作詞家を目指したキッカケだったと思います。

社会人になり、オリエンタルランド社に入社。ディズニーの「Duffy & Friends」というキャラクターのブランディングを担当し、同キャラクターを通したディズニーリゾートの体験価値向上の戦略を立てました。Duffyは、Disney Bearと呼ばれるテディベア商品だったのですが、ぬいぐるみに固有の名前「Duffy」を付けたことで物語が生まれ、Duffyを家族の一員として扱うゲストが増えていくことに感動しました。「物語」が、ぬいぐるみに命を宿したのです。この経験を通し、クリエイターとしての人生を歩んでみたいと考えるようになりました。

★NYを選んだ理由
ミュージカルに関わることを学びたかったので、ブロードウェイがあるニューヨークを選択。30歳までに長期留学をするという目標を立て、29歳でNYUの大学院に合格した矢先に、コロナ禍のロックダウンが始まりました。でも、「30歳までに渡米する」という目標を果たすため、勤めていた会社を辞め、2020年に来米。卒業までの2年間、必死に勉強して成長しなければいけない時に、帰る場所を作ってしまうと、自分に甘い私はガムシャラに努力しないだろうと考え、退路を断ち、ゼロから新世界に入る覚悟を決めて来ました。



★創作(脚本の執筆、作詞)の醍醐味
醍醐味は「コラボレーション」。私は去年1年かけて、卒業制作としてワールドトレードセンターの建築家をモデルにした長編ミュージカルを作りました。私1人ではなく、作曲家のBen Ginsbergと一緒に物語と曲を考えています。制作スケジュール上、常に締め切りに追われるストレスのかかる作業でした。その上、Benと作品の方向性が合わず喧嘩になったり、アイディアが浮かばず、コストコで食べ物を買い込んで毎晩深夜4時まで作曲する日々を続けていました。何より辛かったのは、Benは典型的なカリフォルニアボーイで時間にルーズ。一方、私は遅刻するのが嫌いな日本人で、お互いにイライラすることがしょっちゅう。それでも一緒に制作を続けてこられたのは、Benが作曲してくれることによって私には描けない世界を作れると確信、Benは、彼には無い文化の物語を私が書くことを尊敬してくれている。互いが持つ得意分野の掛け算で、1人では生み出せない特別な作品ができることを信じているからです。ミュージカルの制作は5年から10年かかる旅で、一つの「YES」を獲得するまでに大量の「NO」を貰う。それでも「いつか光があたる」と信じられるのは、制作を通して自分に無いモノを持っているアーティストたち、このチームでしか作り出せないミュージカルを探究できる、特別な絆を得られると感じているからです。人生の中で、そんなチームの一員でいられることを幸せに思います。

ミュージカル「MINORU: Scrape the Sky」の曲を発表。(左から)主役のShun Kanazawa、明石もも、作曲家のBen Ginsberg、Benの母

★NYを選んだ理由
大学卒業後、ニューヨークに残るかどうか、とても悩みました。夫は日本で、心から頼れる人が近くにいないという孤独感。そんな時、韓国人の友人とキャバレーショーを観に行きました。オープンマイクの時間があり、友人が急遽ステージに立って歌うことに。1人ワンフレーズだけの決まりだったのですが、彼女があまりに上手いために観客が沸き、結局、一曲まるまる歌いきり、拍手喝采!その時、「どんな小さなチャンスでもモノにして、アピールできる人物だけが、ココで生き残っていくんだ」と実感。そのためには可能な限りニューヨークで活動し、生き残り、チャンスを探し続けなければならない……ニューヨークに残る覚悟を決めた瞬間でした。

★将来のビジョン
私が書くミュージカルは「日系アメリカ人」の物語なので、アジア系パフォーマーの皆さんにデモ録音や出演してもらうことが多いのですが、現状、ミュージカルでアジア人の役がほとんど無いため、彼らの多くが、「役を得ることは難しい」と話しています。そんな彼らは、私の作品を「とても特別で、大切なプロジェクトだ」と言ってくれることがとても嬉しい。アジア人という理由だけで、世に出ていない才能ある役者やクリエイターが、私たちの作品を通して注目してもらえるきっかけを作れたら、とても幸せに思います。

maroon.momo@gmail.com
www.momoakashi.com
instagram.com/akomomo0330

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