2021年10月29日号 Vol.409

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白人社会で手を上げ続けること

堀部 直美
Naomi Horibe
プロデューサー

・出身:千葉県

★役者からプロデューサーへ
ミュージカル「シカゴ」の来日公演に魅了されたことから、大学時代は舞台役者を目指し、歌・芝居・ダンスレッスンと、それらのレッスン代を払うためのアルバイトに明け暮れました。念願叶って舞台にも出演したのですが、人前で演じる事を楽しめないことに気が付き、役者を辞めることに。その後、訪れたニューヨークで役者を目指すきっかけとなった「シカゴ」を、「ただ楽しむことだけを目的に観よう!」と決めて観劇。幕が上がった瞬間、再び舞台がキラキラして見えることに号泣し、「やっぱり舞台が好き」という気持ちを取り戻したのです。その後、先輩の役者さんたちが手がけた子ども向けミュージカルの自主公演を鑑賞したのですが、「作り手が『届けたい』と思う人々に、まっすぐリーチする方法があるのでは? ほぼ役者だけで運営している劇団では、出来ることに限りがあるのではないだろうか」と感じたことで、「私にもビジネス面から何かサポート出来ることがあるかもしれない」と閃きました。また、以前から「日本でもっと舞台が身近なものになって欲しい」と考えていたので、その後、エンタメ専門のサイトで舞台やコンサートなどのチケット販売、マーケティングなどを経験。ニューヨークやロンドンなど、良質なオリジナル作品を制作できるマーケットに憧れ、アメリカ留学を決意しました。



★ブロードウェイ制作に携わるようになったきっかけ
モンロー大学(ウエストチェスター、NY)でMBAを取得後、OPT期間中に舞台業界で働き、アメリカの舞台制作を実務の中で学んだことが発端です。私にとって貴重な経験になりました。その後、結婚を機にグリーンカードを取得、舞台専門のエンターテインメント法律事務所でアシスタントとして勤務し、その際に上演権の取得など、プロデューサーの仕事の一端を学びました。

★「白人社会」と言われるアメリカの舞台業界について
会議中、ふと周りを見渡すと自分以外は全員白人ということが多かったですし、舞台専門のインターンシップ・ジョブフェアでも、アジア人のインターン希望者は4人、採用者サイドでもアジア人の担当者は1人しかいませんでしたね。私はアジア人であると同時に英語は第二言語ですから、「二重の壁」を突破しなければいけません。この業界で、どの団体が、誰が「多様性や相違点を重視する『ダイバーシティ』に対してオープンか」という情報は、オンライン上では滅多に見つけられませんでした。そこで、ニューヨーク中の劇場や制作会社に、ひたすら履歴書を送り続けましたよ。最初のインターンシップの内定をもらうまでに軽く35枚以上の履歴書を送ったかな。諦めずに挑戦し続けることが大切だと思っています。

演劇「IS THIS A ROOMから(Photo by Chad Batka)

★成功に必要なこと
この業界はとても狭く、新しく出会う人でも、必ず数人、共通の知り合いがいます。そのため、「ミス」は出来ても「ヘマ」は出来ないという緊張感が常にあります。また、「人脈を広げること」を常に心がけること。「私はここにいるよー!」と手を上げ続けること、そして頻繁に自分の知識をアップデートし、チャンスが来た時に飛び込み、即座に貢献出来る状態を保つことが重要ではないでしょうか。

★近年の「Black Lives Matter(BLM)」ムーブメントが演劇業界にもたらしたもの
2018年頃から「ダイバーシティ」を掲げ、インターンにもBIPOC(Black, Indigenous, People of Color=黒人、先住民、有色人種の略)を積極的に雇う動きが出ていました。さらに昨年の「BLM」ムーブメントの高揚以降、業界の本質を変えるためには、トップダウンで行動する必要があるという認識が生まれたのです。それを受け、マイノリティから新進気鋭のプロデューサーをショーに起用する「Seat at the Table」プログラムが誕生。現在、ブロードウェイで開催中の演劇「IS THIS A ROOM」のアソシエイト・プロデューサーとして、私が選任されたことも、そんな背景があってのことでした。

★プロデューサーとして作品を通して訴えたいこと
BIPOCや障碍を持ったマイノリティの人々の話を中心に、社会へ届けたいです。いつか、日本のオリジナル作品をプロデュースして、海外でも上演したい。特に、第二次世界大戦の話を制作し、平和を訴えていきたいですね。

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