音楽を「祈り」として表現
及川 陽菜・Hina Oikawa
・サックス奏者/作曲家/編曲家 ・出身:埼玉県
★「目立ちたがり屋」が影響
中学に入り友人から「吹奏楽部の仮入部に行こう」と誘われ、初めて「サックス」という楽器を知りました。目立ちたがり屋だったので、音も見た目も華やかなサックスに心を奪われ、そのまま入部。アルトサックスの担当には「明るくて目立ちたがり屋」が選ばれていたことから、私がアルトサックスを受け持つことに。あの時、私が選ばれていなかったら、今ニューヨークでサックスを吹いていないんだと思うと不思議に感じます。
入部した吹奏楽部は強豪校で、そこで学んだことは今の自分の基盤になっているのですが、上下関係やルールなどがとても厳しく、堅苦しさも感じていました。「音楽は続けたいしサックスもずっとやりたいけど、吹奏楽はやりたくないなあ」とも思っていました。高校受験の際、いろいろ調べると自宅から一番近い高校にジャズ研があったんです。ジャズを知らないにも関わらず、家から近いし吹奏楽ではない音楽ができる、という理由でその高校に進学、ジャズを始めました。
ジャズ研で最初にハマったのは、サックスではなくルイ・アームストロングの「What a Wonderful World」。その後アート・ブレイキーの有名アルバム「Moanin’」からベニー・ゴルソン作曲の2曲目の「Are you real?」という曲が気に入り、そこからジャズにのめり込んで行きました。ファンクやスムースジャズみたいなものには全然ハマらず、いわゆるハードバップと呼ばれるジャズが入り口になり、その後ビバップの神様と呼ばれるチャーリー・パーカーなどに傾倒して行きました。
★ジャズの魅力、演奏の醍醐味とは
魅力はたくさんありますが、即興演奏が基本であるため毎回、唯一無二の演奏となること。その一方、多くの他者に共有可能であり、かつ干渉ができるという点です。全く同じ演奏はできないのですが、だからこそ共演者の反応で音楽が思わぬ方向に進んでいったり、音楽を通して感情以上のものを共有できる瞬間があります。また、即興演奏はそれ自体が大きな「祈り」。作曲家の武満徹は「ジャズは、表現よりも行動という言葉の感覚に近い。それは欲望の呻きであり、嗚咽であり、祈りの呪文である」と著作で述べています。「生に対する激しい執着が、彼らをしてジャズさせたのだ。だから彼らのうたは、神を讃美すると同時に、獣的な欲望の匂いを発散させている」。特定の信仰に関わらず、祈りというのは人間に備わったある種の本能的なものではないかと思っていますので、そうした人間の「生命」を表現できる、証することができる人間の行動としてジャズを愛しています。
★自分は「誰」なのかを問う
英語が密接に絡んでいる「ジャズ」の特性上、本場アメリカで学ぶことが重要だと考えていました。20歳の時、親に「振袖は着なくていいから、そのお金でニューヨークに行ってみたい」と懇願してニューヨークへ。街の空気、ハイレベルな演奏をする同世代、何よりレジェンドと呼ばれる素晴らしいミュージシャンの演奏を生で聴けたことが嬉しくて、ニューヨークでジャズを勉強しようと決意。大学卒業時にパンデミックが始まってしまったこともあり、3年ほど留学の準備に費やしましたが、Queens Collegeへ入学、憧れの音楽家たちの元で学びました。ジャズは単一のスタイルに縛られず、様々なジャンルや文化との融合を通じて進化し続けています。特にニューヨークは多様な人種、宗教、性別の人々が世界中から集まることから、彼らのルーツや信仰などを消化したジャズも盛ん。「自分は『誰』なのか」という問いに真正面から挑んでいる音楽家が多い。自分は誰なのか、何故音楽に向き合うのか、自分の音楽それ自体が祈りとして表現できるのか、という問いに挑みたいという気持ちがあり、卒業後もニューヨークで活動を続けてます。
★現在と将来のビジョン
サックス奏者として、自分のクインテットやビッグバンドで演奏しています。また、ニューヨークでは当日や前日に欠員が出て急遽呼ばれる場合があり、憧れのミュージシャンと一緒に演奏できる上、自分を知ってもらえるチャンスなので、いつでも対応できるよう心がけています。
また演奏者としてだけではなく、作曲家やバンドリーダーとして活動できるアーティストになりたい。短歌が趣味で、短歌からインスピレーションを受けた曲、短歌を歌詞にしたジャズの曲などもあり、日本文化とジャズを融合させた作品も今後発表したいです。生きている証として「私」という存在を表現・創作することを止めず、流れるようにやっていきたいと思っています。現在、リトルビッグバンドのコンサートを企画。いずれレコーディングしたいと考えているプロジェクトを進行中。5月11日(土)のジャパンパレードでは、フロート上で演奏します。