失った声と向き合う、歌で紡いだ希望と再生
ボーカリスト:KAZUMA
2026年2月6日号掲載|5
「子どもの頃は、どちらかというと内向的でした。一人で過ごす時間が好きで、自然の中で遊んだり、音に耳を澄ましたり。人前で何かを表現することは、少し苦手だったように思います」山形県鶴岡出身のボーカリスト、KAZUMA。祖父母、両親、愛犬チャッピー、そして4人兄弟の長男として育った。
「気持ちを言葉にできない代わりに、歌うことで自分を保っていた気がします。私にとって歌は『居場所』のようなもの。父がミュージシャンだったことにも影響されたと思います。ただ、同時に『父と同じ道を歩いていいのか』という葛藤はありました」
最終的に音楽の道を選んだのは、誰かに勧められたわけではなく、「歌わない自分が想像できなかった」と打ち明ける。

18歳でアーティスト養成事務所に所属。ボイストレーニングやライブ活動を重ね、20代中盤から本格的に音楽活動を開始した。夢に向かい走り始めたKAZUMAを突然、悲劇が襲う。発声障害により声を失ってしまった。
「一番苦しかったのは、歌えないことより、『歌えない自分を受け入れること』でした。声が出ないという事実よりも、歌を失った自分には一体、何が残るのか、分からなくなってしまって…」
KAZUMAにとって「歌」はただの手段ではなく「存在」そのもの。何とか声を取り戻そうと、リハビリやトレーニングを重ねる中で、ニューヨーク行きを決断する。「どん底の状態だったからこそ、全く違う場所に身を置きたかった。ニューヨークは、誰も私を知らない場所。ですが同時に、どんな人間も受け入れてくれる街だと感じていました」
来米し、思うように言葉も通じない環境にありながら、音楽だけで人と繋がれた瞬間を経験したという。「評価される前に、『存在していい』と思えた、その感覚に救われました。自然に囲まれた鶴岡と、エネルギーに満ちたニューヨーク。一見正反対ですが、どちらも私に『自分でいられる場所』を教えてくれました」
ニューヨークでの出会いや経験、声を取り戻す過程で、「歌」に対する意識に変化が現れた。「『どう歌うか』より、『なぜ歌うか』を考えるようになりました。私にとって歌とは、『誰かと心を分かち合うためのもの』です。さらに、鶴岡で過ごした時間や風景が自分の表現の根っこにある。故郷と距離をおいたことで、その存在の大きさにも気づけました」
ニューヨークから帰国後の2021年、チャペルで行ったノーマイク公演は、その延長上にあった。「自分の声と心が、本当に一致しているかを確かめたかったんです」
日本で活動を続けながらも、海外で表現したいという気持ちが膨れ上がっていったKAZUMA。20 23年のカーネギーホールで開催された日米交流イベントへの出演をきっかけに、ニューヨーク・ファッション・ウィーク、パリ・ファッション・ウィークなどでインターバルパフォーマンスを披露した。
「年齢を重ねるごとに、結果よりも『その場に立つ意味』を大切にするようになりました。海外では、背景よりも『今、何を表現しているか』を純粋に受け取ってもらえるという感覚があります。それはとても自由で、同時に責任も感じています」
目標とするのは、カザフスタン出身の歌手、ディマシュ・クダイベルゲン(Dimash Kudaibergen)だ。「彼は今、世界で一番の歌手だと思います。艶のある声、あらゆる歌唱をものにする万能性、圧倒的なハイトーンに魅力を感じます。彼だけでなく、『誠実に表現を続けている人』には強く惹かれますし、派手さよりも『人生がにじみ出る表現』が私の目標です」
2024年、ファースト・アルバム「〜KOKUU〜」をリリース。それは声を失い、再び歌えるようになるまでの歩みそのものだった。「『再生』と『希望』がテーマです。空虚な時間があったからこそ、音楽の意味を深く掘り下げることができました」
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KAZUMAは2月12日(木)、ローワーイーストサイドのライブハウス「アーリーンズ・グローサリー(Arlene’s Grocery)」で無料公演を行う。彼の弟分として知られるデュオ「アサヒノト」も来米、共にステージに立つ。この日は、ニューヨークで活動する日本人パフォーマーのraTeraやトシ・カプチーノも登場する。
「入場無料にしたのは、音楽を特別な人だけのものにしたくなかった。地元ミュージシャンとの共演を通して、文化や言葉を超えた交流を生み出したいと思っています」
何かを失いかけている人へ、届けたい願いとは何だろうか。「あなたにとって本当に大切なものなら『絶対に手放すな!』と伝えたい。決して諦めないこと、自分の未来を自分で取り戻せると信じることが大切。そして、それは必ずあなたの人生に良い形で帰ってくる。だから諦めないでほしいし、僕は、そんなあなたのそばにいると伝えたいです」
ニューヨーク滞在中、楽しみにしているのは街にあふれる音楽の空気感だという。
「ライブハウスや街角で出会う音やリズムが、自分の歌にどんな影響を与えてくれるのか。それを肌で感じたい」
声を取り戻し、歌う意味を見出したKAZUMA。澄んだ高音と繊細なファルセットに、彼が見い出した「希望」と「再生」が宿っている。
KAZUMA New York Live
■2月12日(木)6:30pm
■会場:Arlene’s Grocery
95 Stanton St. NYC
■入場無料
■https://www.arlenesgrocerynyc.com
■https://www.instagram.com/kazuma_singer/reels/