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凄かった〝魔女〟の執念
高市自民党が衆院選で圧勝
2026年3月6日号掲載|11
高市早苗という〝魔女〟の執念と威力は凄まじかった。
2月8日に行われた衆議院議員選挙―― 自民党が追加公認も含めると316議席を獲得、特に小選挙区で他党を圧倒、総数289のうち249選挙区で勝利、元々保守が強かった北陸などに加えて、東京の30、神奈川の20選挙区など31都県で議席独占という、まさに歴史的圧勝だった。
比例区でも総得票の37%に当たる2100万を超す票を得て、本来であれば81議席を得ることができたのだが、当選すべき候補者が足りず、14議席を他党に譲り67議席を獲得した。候補者が充足していれば総議席は330に達していたことになる。
衆議院定数465の3分の2は310議席で、自民党は単独でこれをはるかに上回り、憲法改正の発議が行えるほか、参議院で否決された法案を再可決して成立させることもできる。むろん、全ての常任委員長は独占できる。高市自民党は、国会でやりたい放題が可能な勢力を得たのである。
終わってみれば、こういう結果だが、そこに至る経過は実はドタバタだった。
新年が明けるまで、この選挙を予想するものは皆無に近かった。それが1月6日の読売新聞が1面トップで、高市が通常国会冒頭での解散を検討していると伝えたことで一気に動き出したのである。
経緯を辿ると、自民党が独自に行なっている選挙向けの調査で、昨年暮れには「いま選挙をすれば自民党単独で衆院の過半数が取れる」という結果が出た。高市は早期解散による総選挙への意欲を急速に高め、側近らに密かに伝えて準備を指示していた。そうした動きを読売が察知した結果の記事だった。
それにしても通常国会冒頭の解散とは、あまりに異常である。通常国会というのは1月下旬に始まり、6月半ばまでの会期で、新年度予算のほか数多くの重要法案を審議することになっている。それを1日で解散するというのだ。
なぜ解散なのか、高市自身の言葉を再録する。(一部略)

<まず、高市内閣が掲げております「責任ある積極財政」、安全保障政策の抜本的な強化、それから、国家情報局などの設置も含めて政府のインテリジェンス機能の強化といった重要な政策転換がございます。そうした「新たな国づくり」を進めて良いのかどうか、国民の皆様に直接問いたいと思っております。それから、衆議院の現在の議席は、前回選挙で自民党と公明党の連立政権の下で決まったものでございます。この枠組みも、自民党と日本維新の会との連立に変わりました。新たな政権枠組みの下での重要な政策転換については、主に、今年の国会でご審議をいただくものでございますので、その前に、国民の皆様に直接、正面から、信を問うべきだと考えました。総選挙によって信任を頂いた上で、是非、力強く進めたいと考えております>
「総理大臣が、この高市で良いかどうか、国民の判断を仰ぐ」というもので、有権者と正面から向き合う決意を述べたのだった。
昨年10月、〝魔女の執念〟で自民党総裁を手にした高市だったが、その直後に四半世紀も連立を組んできた公明党から三くだり半を突きつけられた。政党としての形もおぼつかない日本維新の会とおっとり刀で連立を組んでなんとか衆議院の過半数を確保し、宿願の総理の座には辿りついたが、国会運営は心許ない。自我の強い高市にとって、野党に頭を下げながらの法律審議は気が重かったに違いない。「解散・総選挙!」に行き着くのに時間はかからなかった。
1月23日に通常国会を招集して解散、27日衆院選公示、2月8日投開票という戦後最短の慌ただしい日程が決まる。北海道から山陰まで記録的な豪雪災害で苦しんでいる。そうした地域への思いやりはなかった。「勝ちたい」という〝魔女の執念〟だけがあった。
この状況を見て、野党にも唐突な動きが出る。自民党と連立を組んできた公明党が、自公両党とは長く対極に居続けた立憲民主党とくっついたのである。
公明党は自民党から「下駄の雪」などと蔑まれながらも、選挙の都度、創価学会員で固めた組織票で自民党を助けてきた。各小選挙区で1〜2万票と言われる堅い票だった。それがなくなって、立憲民主に行くとなれば、自民党候補は穏やかではない。しかし、高市に後戻りする気配は皆無だった。選挙戦を通じて高市は、「私が、私が」を連呼して他党批判は一切しなかった。有権者の多くが、その景色を「ぶれない強さ」と感じた。
逆に公明と立憲の合併は、多くの有権者に「野合」と映った。
そもそも、新党の名前が良くない。「中道改革連合」などという時代遅れのネーミング。主要政策が「生活者ファースト」というのであれば、「生活者党」でも「暮らしの党」でも良かった。新党は衆議院だけで、参議院や地方議会では立憲と公明党の組織をそのままにするという建て付けにも、「どこまで本気なの?」と疑問の声が上がった。

選挙の結果は、そうした有権者の心情を見事に反映した。「中道」の議席は、公示前の167から49まで激減した。そのうち28人は、比例区だけに出した旧公明党の候補である。全員が当選し、公明は公示前の勢力を上回った。旧立憲はといえば、小選挙区の当選がたった7人、比例区は当選への優先順位を旧公明候補に譲ったため、自民党の候補不足で譲られた分を含めても14人に止まり、合計21人という惨状だった。
公明票を失うことに懸念が深かった自民党だが、いまや「下駄の雪がとれて歩きやすくなった」などと上機嫌である。
さて、望外の圧勝を招き寄せた高市だが、看板とする積極財政に、型破りの異次元緩和を実行した前日銀総裁の黒田東彦が異を唱えている。「アベノミクスの時は円高でデフレだったから『金融緩和』と『積極財政』が効きましたが、今は円安でインフレなんだから、本来は金融も財政も引き締めるべきだ……大規模な財政拡張策に対して、財政の持続可能性に対する不安が一時的に強まり、円売りが進んだ」(文藝春秋3月号)
IMFの対日審査団長を務めたラルフ・アナンドも「円安が長期化すれば、輸入価格上昇による消費者物価指数への波及が強まる」との見方を示し、2月17日に発表した声明で、日本政府に財政規律を求めた。
高市は、暴政を重ねるトランプを一言も批判しない唯一の主要国リーダーでもある。歴史的圧勝をもたらした有権者が後悔することにならないと良いのだが。(敬称略)