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止まらないトランプの暴走

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止まらないトランプの暴走
世界を揺さぶる独善パワーゲーム
内田 忠男(国際ジャーナリスト)

2026年2月6日号掲載|11

ドナルド・トランプの日常を見ていると、彼は大統領職そのものよりも、大統領に選ばれるための「選挙運動」というプロセスが一番好きなのだと思う。大衆に向け好き勝手なことを言いまくり、歓呼を受ける快感こそが、生命力の源泉のように見える。

彼の演説というのは、並の人間なら恥ずかしくなるほどの壮大な誇張・自慢と、いくつかの虚偽によって構成され、それによって精一杯「虚勢」を張るのが常である。類まれな扇動家たる所以であろう。

私にとって不可解なのは、アメリカという成熟した国家の市民の30%もが、この見え透いた虚勢に半ば陶酔し信じていることなのだ。

今年2026年は中間選挙の年である。本人の運命を直接決めるわけではないが、自らのレガシーを定着させるために連邦議会の勢力が「ねじれ」状態になるのは回避すべき状況である。政権の浮沈を占う選挙であれば、負けるわけには行かない。

だが、昨年暮れごろから、トランプの支持率に翳りが見えてきた。昨年10月1日から11月13日まで過去最長となった政府機関の閉鎖も影響したであろう。この閉鎖で110億ドルの経済損失をもたらしたとの試算もある。ギャラップの支持率は36%と、2期目就任以来の最低値を記録していた。不支持は就任以来ずっと半数を超えている。

トランプ自身は、「歴代最高の大統領だ」と強弁する姿勢を崩していないが、結構気の小さいところもある。内面では相当気にしているのではないか。演説で虚勢を張るのは、気の小ささ、心のうちの不安を常に抱えていることの証だとの見方も多い。

そのせいか、年明けとともに目まぐるしく動いている。それが支持率回復につながるかは不明だが、本人はそれを目的にしているとしか思えない。

3日未明には南米ヴェネズエラの首都カラカス周辺を軍事攻撃し、複数の軍事施設を破壊したうえ、反米の強権大統領ニコラス・マドゥロと妻を、米国への麻薬密輸を企み実行した刑事被告人の名目で拘束、身柄をニューヨークに移送するという「離れ業」を演じてみせた。本来の目的は埋蔵量世界2位という原油権益と言われる。

作戦実行の模様をリアルタイムで見つめる映像を公開し、「第2次大戦終結後、これほど見事に成功した軍事攻撃は見たことがない」などと、例によって誇張したが、「見たことがない」のは、こうした実戦に接した経験のないトランプだけではないか。

昨年8月からCIAの秘密工作員を潜入させ、準備を進めていたというが、このタイミングで作戦を強行したのは、国内外に向け、自らの権勢を誇示したかったからに相違あるまい。

当然のことながら、国際社会からは国際法違反が指摘され、懸念の声が上がったが、トランプ自身は気にする気配も見せず、「次は西半球で同じようにアメリカにたてついているコロンビアやメキシコが標的になるだろう」などと、これも彼一流の「脅し文句」を並べた。そのうえ、かねてから主張してきたグリーンランドの領有に向けても、「周辺にはロシアと中国の船がウヨウヨして攻撃の機会を狙っている。我々の安全保障上、絶対に必要な島だ。外交交渉が上手く行かなければ強行手段もあり得る」との発言を繰り返した。実際には、同島周辺にいる中露の船舶はさほど多くない。

ホワイトハウス公式SNS
ホワイトハウス公式SNSに投稿された、トランプ大統領のグリーンランド領有への意欲を象徴したAI画像。北極圏に存在しないペンギンの描写が、「一般常識すら無いのか」と世界中から失笑された。

グリーンランドは、北大西洋と北極海の間にある世界最大の島だが、1721年以来デンマーク王国の領土となり、1953年以降は同国の自治領となっている。デンマークは北大西洋条約機構=NATO結成以来の加盟国であり、NATOは加盟国が攻撃された場合即座に集団的自衛権を発動すると規定している。この条文に照らせば、仮にグリーンランドがロシアや中国の攻撃を受けたとしても、アメリカを含むNATO諸国が結束して反撃する。そうした危険を冒してまでグリーンランドを攻撃する国があるとは考え難く、どう考えても合理性のある政策とは言いようがない。

フランスやドイツは、トランプのねじ曲がった欲望を抑えるため、1月15日までに「人間の盾」となる部隊を同島に派遣した。トランプは、「米国の意志に背く国には新たな関税を課す」と脅したうえ、17日には英仏独蘭とスカンジナヴィア4ヵ国の計8ヵ国に2月1日から10%の追加関税を課す、6月には25%に引き上げるとも発表した。不条理このうえない関税案だったが、21日にダボス会議に出席してNATO事務総長と会談、「大枠合意」したとして引っ込めた。ニューヨークタイムズが22日に報じたところでは、グリーンランドの一部領土を米国の主権基地領域とすることなどが検討されているという。

ロシアの強権大統領プーチンは、米欧が一枚岩のNATOを最大の脅威としてきた。米欧が激しく対立するのを見て、「ドナルドよくやってる」と快哉を叫んだことだろう。

欧州の同盟国が反対し、デンマークと自治政府が揃って「売り物ではない」と言っているグリーンランドを領有しようとするのは、埋蔵しているレアアースが狙いだという。カネになりそうな土地を所有したいとする不動産業者の欲望と同じである。つまり、トランプの価値観とは、不動産業者の価値観そのものなのである。グリーンランドに「トランプ・タワー」でも建てようと言うのか?

もう一つ驚かされたのは、「フェイクニューズの塊」と決めつけ、不倶戴天の敵とも言えるニューヨークタイムズとの単独会見に応じたことだった。これも支持率低下への焦りが決断させたと考えられる。

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1月7日、東京特派員からワシントン詰となり、シニア・ホワイトハウス・コレスポンデントを長く務めるなど42年の記者歴を誇る練達のジャーナリストで、私の年来の友人でもあるデイヴィッド・サンガーはじめ4人の記者を大統領執務室に招き入れ、2時間余にわたる長いインタヴューに応じたのである。

米軍の最高指揮官でもある自らの権力に始まって、ミネソタでICE(米国移民・関税執行局)の職員が市民を射殺した事件、対ヴェネズエラ戦略、ロシア・ウクライナ戦争、グリーンランドとNATO、自らの健康、ホワイトハウスの改修……など、広範な分野にわたり弁舌を振るい、9日付の同紙はほぼノーカットで掲載した。私のパソコンに移したら12ポイントのフォントでレターサイズ100ページにも及んだ。

これだけの長さだから、驚いたり気になったりした箇所は限りなくあった。一例をあげれば、記者団の一人ケイティ・ロジャースが、「国際舞台であなたの力を抑えるものがあるか」と問うたのに対し、トランプはこう答えた。

「ああ、一つあるよ。私の道徳観だ。私の心だ。これだけが止めることができる」

ケイティが「国際法ではないの?」とかぶせると、「国際法など要らない」と言い放った。

「私の道徳観」とはよくも言ったもので、彼に正常な道徳観があると信じている人はごく少ないのではないか。大統領になったから公判を免れているが、幾つもの案件で起訴されている刑事被告人なのだ。

トランプにはTACO=Trump Always Chickens Out、トランプはいつも尻込みしている、との評価もある。「トランプが何を吹こうが、どうせ取り下げるだろうと、市場はそれを見越して動くようになった」とも言われる。中間選挙に向けて、これからどんな動きをし、市場や市民がどう受け止めるか?(敬称略)

ホワイトハウス公式SNS

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