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Detail 117:露呈した日本の弱腰外交

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2025年5月9日号掲載|11

尖閣での中国船衝突映像が流出
露呈した日本の弱腰外交

2010年11月4日、インターネット上の動画サイトYouTubeに、「sengoku38」のハンドルネームで、尖閣諸島周辺海域で領海侵犯した中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突するシーンが記録された44分間の動画が投稿された。海上保安官が撮影した映像で、それより3日前の同月1日に、6分50秒に編集されたものが衆参両院の予算委員会に所属する国会議員だけに提供されたが、一般には公開されていなかった。

投稿直後、大阪の読売テレビに一色正春を名乗る現職保安官から連絡が入り、流出させたのが自分であったことを話した。一色は、同月10日に勤務先の神戸海上保安部の上司に、動画を流出させたことを告白、やがて辞職することになる(後述)。

事件は、この年9月7日午前に起きていた。尖閣諸島周辺を警戒中の巡視船「みずき」が領海内で操業している中国のトロール漁船を見つけ退去を命じたが、漁船は無視して操業を続け、40分後には網を上げて逃走を開始した。近くにいた巡視船「よなくに」も加わって追跡に入ると、中国漁船はまず「よなくに」の左舷後部に衝突した後、並走しながら停船を命じていた「みずき」の右舷後方にも接触して、それぞれに損傷を与え、さらに逃走を続けた。

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巡視船は前方を塞いで放水するなどし、強行接舷して漁船を停止させた。船長を拘束して近くの石垣島に連行、船長以外の漁船員も石垣港への回航を命じ、事情聴取の対象とした。法治国家として当然の行為である。

本来、外国船舶が領海内で違法操業や目的のない行動をしていると認められた場合、外国人漁業規制法違反や、「領海等における外国船舶の航行に関する法律」違反などの疑いで、停船を命じたうえ立入検査を求め、違反が見つかれば該当する法律を根拠に現行犯で、逃走した場合は立入検査を忌避した漁業法違反罪で逮捕することになっている。

尖閣諸島について日本政府は、「歴史的にも国際法上も日本固有の領土であることが明らかで、解決しなければならない領有権問題はそもそも存在しない」という姿勢をとっているが、事実上は中国と領有を争っていることから、中国船については例外的に領海外への退去を命ずる範囲に止めていたが、漁船が2度にわたって巡視船に衝突するなど悪質だとして、公務執行妨害による逮捕となった。この際、100隻程度の中国漁船が領海への出入りを繰り返し、違法操業していたことも確認されている。

中国政府は一連の日本側の対応に即座に反応し、丹羽宇一郎大使を呼びつけて厳重抗議、船長と船員の即時釈放と漁船の返還を求めた。

外交経験の少ない民主党・菅直人内閣はこの勢いに押されて、同月13日に参考人聴取していた漁船員14人を中国政府のチャーター機で全員帰国させ、漁船も中国側に返してしまう。船長のみは国内法に基づく司法手続きを継続した。(次ページへ続く)

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巡視船に衝突するシーン

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