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2025年4月25日号掲載|11
名古屋から世界へ
COPが描いた生物多様性の未来
国際連合加盟国の間に「生物の多様性に関する条約」、英語ではConvention on Biological Diversityという条約があるのをご存知だろうか。
1992年6月にブラジル・リオデジャネイロで開かれた国連環境開発会議、通称「地球サミット」で調印され、93年12月に発効した。国連加盟国の総数を上回る196の国と地域が加盟している。
絶滅の恐れある動植物の国際取引を規制するワシントン条約や、水鳥の生息地となる湿地の保全に関するラムサール条約のように、特定の行為や地点を対象にするのではなく、地球上の生物の多様性を包括的に保全するとともに、持続可能な利用を維持し、そこから生ずる利益の公正かつ衡平な配分を目的として締結された。

締約国は、生物多様性の保全と持続可能な利用を目的とする国家戦略と計画を作成し実行する義務を負う。また、持続可能な利用の政策への組込みや、先住民による薬方など伝統的・文化的な慣習を保護奨励することも規定されているほか、遺伝資源の利用に関しては、もたらされる利益を資源提供国と利用国が公正かつ衡平に配分すること、途上国への技術移転を公正で最も有利な条件で実施することも求められている。遺伝資源というのは、人類の暮らしに役立つ作物や家畜を作り出すうえで、生物の持つ多様な遺伝子が、現実的にも潜在的にも利用価値があることから、そうした遺伝素材を表すために生まれた言葉である。
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近年、新型コロナ・ウイルスのパンデミックが起きたことで、『なぜ新型ウイルスが、次々と世界を襲うのか? パンデミックの生態学』(マリー・モニクロバン著、杉村昌昭訳、22年5月作品社刊)という本が話題になった。
著者はフランスのジャーナリストで、兼ねてから精力的な取材に基づくドキュメンタリーなどで多くの賞を得ている。世界の最先端で研究を進める感染症学、ウイルス学、進化生物学、保全生物学、各種生態学など62人にインタビューした成果をもとに、コウモリやネズミなどに潜んでいたウイルスが、なぜ、ある時、突然に短期間で全世界に広がるのか、実態を明らかにしながら、自然環境と生物多様性の破壊こそが新型ウイルス出現の条件になっていると鋭く指摘している。真の感染症対策は、ウイルスのゲノム解析やワクチンの開発拡販競争などではなく、生物多様性と生態系の保全であり、これを世界各国が協力して推進しない限り、さらに破局的な新種のウイルスが地球を襲う可能性が高いことに警鐘を鳴らしている。生物の多様性を守ることは、私たち人類の生存につながるということである。
前置きが長くなったが、この生物多様性条約の締約国会議が2010年の10月に名古屋で開かれた。(次ページへ続く)