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Detail 113:オバマ大統領「核なき世界」初提起

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2025年3月14日号掲載|11

「核使用国として道義的責任」
オバマ大統領「核なき世界」初提起

09年が明けて、黒人初の大統領バラク・オバマが就任した。

日曜日の4月5日夕方、名古屋の自宅でCNNを見ているとチェコ共和国の首都プラハからの中継映像が流れ始めた。欧州首脳との初会合でプラハに入り、中心部にあるフラチャニ広場での演説に臨んだのである。

オバマ
オバマ大統領のプラハ演説(2009年4月5日)Author: adrigu CC 表示 2.0

<私たちが今日ここにいるのは、20年前、新たな日々への約束を求めた人々がここに集い、ビロード革命と呼ばれた暴力抜きの変革を成し遂げた場所だからです>

私も1980年代にプラハを訪れた際、この広場に足を踏み入れた。ビロード革命よりさらに21年前の68年に、「プラハの春」と呼ばれた民主化への動きが起き、チェコ共産党第一書記に選ばれたアレキサンドル・ドプチェクが、報道の自由や言論の自由を認め、旅行制限も緩和するなどの自由化政策を主導。ソ連の指導者レオニード・ブレジネフの逆鱗に触れて武力鎮圧された、その中心地でもあった。

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自由と民主主義を渇望した東欧諸国民の「聖地」とも言える広場で、オバマは何を語ったか。

<今日は、世界の平和と安全保障にとって最も基本的な問題、21世紀における核兵器の将来について話したいと思います。冷戦の最も危険な遺産は何千もの核兵器が存在することです……全地球的な核戦争の脅威は無くなりましたが、核攻撃のリスクは増えています。より多くの国が核兵器を持つようになり、核実験を続けています。秘密の核兵器や材料がブラックマーケットで取引されています。爆弾を作る技術が拡散し、テロリストたちはそれらを買い、作り、盗もうとしています……大都市にたった一つの爆弾が爆発しただけで、それがニューヨークであれ、モスクワであれ、イスラマバード、ムンバイ、東京、テルアヴィブ、パリ、そしてこのプラハであれ、何十万の人々を殺します>

アメリカの指導者にとって、半ばタブーともされる核兵器についての大胆な提言を始めたのだった。

<私たちは、20世紀に自由のために立ち上がったように、21世紀には世界中どこにいても、恐怖から解き放たれて生きて行くために共に立ち上がらなければなりません……核保有国の一つとして、核兵器を(実戦で)使用した唯一の保有国として、アメリカには行動を起こす道義的な責任があります>

「as a nuclear power, as the only nuclear power to have used a nuclear weapon, the United States has a moral responsibility to act」

我が耳を疑うような言葉だった。アメリカの大統領が、ここまで踏み込んだ発言をしたのは初めてのことだ。

「Zero Option」という言葉をご存じだろうか。共和党の大統領ロナルド・レーガンが1期目の1981年11月に、当時のアメリカとソ連が欧州に配備した中距離核ミサイルを全廃しようと提案したのだ。この提案は、後にソ連にゴルバチョフという英明なリーダーが登場したことで実現するが、その時でも、核兵器を実戦使用したアメリカの道義的責任に触れたわけではなかった。このワンセンテンスを聞いた時点で、私はオバマという政治家に改めて深い敬意を抱いたのだった。(次ページへ続く)

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オバマ演説

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