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Detail 112:行き過ぎた金融資本主義

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2025年2月14日号掲載

行き過ぎた金融資本主義
貧富の格差是正求めて抗議

前回末尾に「Occupy Wall Street=ウオール街を占拠せよ」に触れたので、今回はこの運動について書いておきたい。そのためには、第2次大戦終結から1989年の東欧革命まで40年余にわたった東西冷戦に遡らねばならない。

広大な版図を持つソヴィエト連邦に率いられた東側陣営は、国により名称に違いはあったが、マルクス主義を奉ずる共産党が統治した。経済も生産から物流、貿易に至るまで共産党の指導と統制で運営され、「計画経済」と呼ばれた。ポーランド、チェコスロヴァキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、アルバニアなどの東欧諸国のほか、中国、北朝鮮、北ベトナムと、59年革命後のキューバなどが追随した。

ボードを掲げる男性
ウォール街占拠デモで「私たちは99%」と書いたボードを掲げる男性(Author by Paul Stein. Licensed CC BY-SA 2.0)
ボードを掲げる男性
ウォール街占拠デモで「私たちは99%」と書いたボードを掲げる男性 (Author by Paul Stein. Licensed CC BY-SA 2.0)

これに対し西側は、欧米と日本など先進諸国が名を連ね、選挙で選ばれた政府が統治する代表制民主主義をとり、営利を目的にした市場を展開する「資本主義経済」が行われ、「自由」が最重要の理念とされた。

東西どちらにも属さないインド、インドネシア、ユーゴスラヴィア、エジプト、イランなどは「非同盟諸国」として首脳会議などを開催していた。

しかし冷戦の終結によって、共産主義という統治理念が姿を消し、90年代以降は、西側の民主主義と市場経済が世界共通の理念となる。共産党の統制に呻吟していた東側の人々は「自由」の実現を喜んで、ほとんど疑いもなく市場経済に順応していった。

21世紀入り最初の大統領となったジョージ・W・ブッシュは就任演説で、「前世紀の大半で、自由と民主主義におけるアメリカの信念は荒れ狂う海の岩であった。いま、風に乗る種子となって多くの国々に根を下ろしている」と述べたほど、世界中が共通の理念のもとに行動しつつあった。多くの国や人が、この「グローバリズム」を歓迎した。

けれども、21世紀が始まった頃から、グローバリズムに懐疑が生じた。根幹を成した「市場経済原理」への反発が高まったからであった。

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前にも書いたことがあるが、市場原理とは「競争」の原理である。自由で公正な競争の中で、需要と供給がバランスし、価格を決めて行く。一見、公平に見えるが、競争は常に勝者と敗者を生む。勝者は得をするが、敗者は損を強いられる。「勝ったり負けたり」であれば得をするものが偏らないが、往々にして、勝つものはいつも勝ち、負けるものはいつも負ける。結果として、富の偏在につながる。

特に、グローバル資本主義の進行につれて、モノやサービスの売り買いでなく、「投資」の名でカネそのものを取引する「金融資本主義」が急速に広がった。コンピュータとインターネットの普及が後押しした。ネット端末の画面をワンクリックするだけで、途方もない額のカネが、何千キロも離れた遠方であれ瞬時に移動するようになり、リスクマネージメント、リスクヘッジ……などという言葉が繁く使われるようになった。

マネーゲームをどう勝ち抜くか? 「金融工学」と呼ばれるものの誕生だった。そこで取引される金額は青天井で高額化し、極限とも言える富の偏在が決定的になる。greedy capitalism=強欲の資本主義、などという言葉も生まれ、カネにカネを生ませる行為が際限もなく広がった。

連邦議会予算局のデータによれば、1980年には所得の上位1%が全収入の9・1%を稼いていたが、2006年にはそれが18・8%に増加した。また、1979年から2007年の間に上位1%の収入は275%も増加したが、下位20%は18%の増加にとどまった。税制が累進的でないこともあって、下位90%の税引き前平均収入は、この期間に900ドル低下した一方で、最上位1%の収入は70万ドル以上も増加。超高額所得の上位400人の収入は1992年から2007年の間に約4倍に増加したのに、平均税率は37%低下した。そうした不公平の中で、07年に最も裕福な1%は、アメリカ中の全資産の34・6%を所有し、次の19%が50・5%を所有していることも明らかになった。9割以上の資産が上位2割の世帯に占有されたのである。

超高額所得者の収入源が、汗水垂らした労働の結果でないことは誰の目にも明らかだ。不労所得とまでは言えなくとも、在来型の経済活動だけに依拠している層からは不満の拠り所となった。(次ページへ)

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