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2025年1月31日号掲載
サブプライム問題、リーマン・ショック
世界経済に激震
2006年に帰国して名古屋に住んでからも、夏休みにはニューヨークに出掛けるのが年中行事になっていた。それが途切れたのは19年以降だ。新型コロナの世界的流行に加え、19年2月に肺がんの手術を受け、その3年後には喉頭がんで放射線の集中治療を受けるなど、私自身に降りかかった健康上の理由も重なったが、以後、ニューヨークはおろか、海外に出ていない。
ニューヨークでの定宿は東50丁目の「キンバリー」。航空券なども含め旅行の全手配を引き受けてくれたIACEトラベルさんが選んでくれた宿だった。全ての部屋がスイートルームで、広さがタップリなのでくつろげた上に、ロケーションもミッドタウンの真ん中にあって、どこへ行くにも便利だったから有難いチョイスだった。
帰国して2年目の07年は大学が夏休みに入った直後の7月26日から8月14日まで、3週間近い滞在だったが、それが後半に入った8月9日、経済ニューズ専門チャンネルからビッグニューズが飛び込んできた。
フランス最大手の銀行BNPパリバが、傘下の投信基金に、サブプライムローン関連の証券化商品の解約を凍結するよう指示した、というのだ。結論から先に言えば、翌年9月に起きたリーマンブラザースの倒産や、世界中に広がった経済危機の先駆けとなる出来事だったのである。
このニューズを聞いた瞬間、私には「これは大変なことになる」という予感が走った。サブプライムローンについては、その前の年にニューヨークで会った金融関係者から情報を得ており、「これは危ないな」という漠とした危機感を持っていた。

今更説明するまでもないと思うが、サブプライムローンというのは、通常の信用力を持っていると判断される「プライム」層より、金融資産が薄く信用力が一段低いと判断される「サブプライム」層に向けて貸し出された住宅ローンのことである。
アメリカでは、私がまだ暮らしていた02年ごろから、急成長するアジア諸国や産油国などから巨額の外資が流入するようになり、折からの低金利と相まって融資条件が大幅に緩和されたことで、不動産市場に活気がみなぎり、次第に住宅バブルの様相を呈していた。バブルというのは勢いである。貸し手としては、その勢いのあるうちに融資対象を広げようとする。緊縮時なら見向きもしなかったサブプライム層にも貸し込もうというのだ。
住宅ローンでは、貸し手が必ずその住宅を担保に取る。住宅価格が上がり続けていれば、仮に借り手が返済できなくなっても、住宅を差し押さえることで貸し手の損失を防ぐことができる。ただ、住宅価格の上昇が止まった時にどうするか? さまざま知恵を巡らせた結果として、貸出当初はプライム並みの低金利とし、2年後くらいから変動金利にして利率を上げて行く方式が一般化した。尻込みする借り手には「住宅価格は上がり続けている。金利が上がり始める頃にはより良い条件で借り換えもできるし、家を売ればその儲けでローンの残額を払うこともできる」などと言葉巧みに言い寄って契約に持ち込んでいた。
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