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「壮絶な怒り」は世界中の迷惑

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連載:Untitled, (Detail 127)|文・内田忠男(国際ジャーナリスト)

「壮絶な怒り」は世界中の迷惑
ネタニヤフに乗せられたイラン攻撃

2026年4月3日号掲載|10

アメリカのトランプとイズラエルのネタニヤフが大義のない戦争に乗り出した。本稿執筆の3月23日も攻撃は続いている。ペルシャ湾の出入りを扼するホルムズ海峡は事実上封鎖状態となり、9日には、アメリカの原油価格の基準とされるWTI先物価格が一時5年ぶりに119円まで上昇、ガソリン代がハネ上がった。日経平均株価も一時4千円超も大暴落するなど、開戦直後に一部で囁かれた楽観論は吹き飛んだ。市場の動揺に伴う大きな迷惑が世界中に広がり、油価高騰の恩恵を受けるプーチンの高笑いが聞こえる。

作戦名はOperation Epic Furyだという。日本のメディアは「壮絶な怒り」と訳している。アメリカがイランに対して何故それほど壮絶に怒っているのか、また怒る必要があるのか理解できない。壮絶に怒るべき相手は他にいるではないか。例えば、ロシア、北朝鮮、中国……。

アメリカとイズラエルは、昨年6月にもイランを攻撃し「12日間戦争」を戦った。この時の作戦名はOperation Midnight Hammer「真夜中の鉄槌」――今回よりは解りやすい。

Operation Epic Fury
2026年2月28日、フロリダのマールアラーゴで作戦「Operation Epic Fury」を指揮したトランプ大統領と同政権関係者(White House photo by Daniel Torok)

イラン攻撃というのは、ネタニヤフの年来の宿願だった。大国ペルシャ以来の伝統を誇り、1979年のイスラム革命以後イズラエルを敵視している。なんとしても弱体化したい、イスラム統治の指導者たちを亡き者にしたい、自分の国は1970年代から核兵器を持っているのに、イランには持たせたくない……。

それほど気になるなら、勝手に攻撃すれば良いのだが、独力では勝てる確信がない。そこでトランプを説得して「共に戦おう」というわけだ。「イランが核兵器取得を目前にしている」ことが材料になった。昨年6月の12日間戦争は、だから、核施設への攻撃だけで終わった。トランプは「壊滅させた」と、例によって戦果を誇張して自慢したが、その後のイランの対応を見る限り、「壊滅」には程遠い。

ネタニヤフは不満だった。トランプに繁く電話をし、面談を重ね、追加攻撃をしつこいほどにせっついた。

そこにはネタニヤフの身勝手な理由がある。首相在任は通算すると17年余にも及ぶが、国民の支持は高くない。今年10月の選挙では敗れる公算が高いとされる。権力欲は人一倍だから、選挙で負けたくない。それには画期的な業績が必要で、それが宿敵イラン潰しというわけだ。

ネタニヤフとトランプ
2025年12月29日、マールアラーゴで行われた二国間記者会見でネタニヤフ首相(左)とトランプ大統領(White House photo by Daniel Torok)

トランプには、「あなたも中間選挙で負けるわけには行かない。イランはイスラム革命以来、常に反米を叫んでいる。最高指導者ハメネイをはじめとする政治権力を根こそぎに消してしまえばアメリカ国民も熱狂的に支持するはずです」
実際には国民の支持どころか反対の方が上回るのだが、あまりにしつこいので関心を向けてしまった。昨年暮れの28日には、イランの首都テヘランのバザールで経済苦境に悩む市民たちが一斉蜂起、政権側が悪名高い革命防衛隊に強行鎮圧させたことで反政府暴動は政治問題化し、イラン各地に広がった。これを見たトランプは1月2日、locked and loadedという言葉を使って「アメリカは反体制派支援の準備ができている、臨戦態勢だ」と宣言した。その後も強硬姿勢を強め、13日にはhelp is on its wayと重ねて反体制派を支援する姿勢を強調した。

ただ、例によって気が変わるのも早い。軍の制服組が、「ヴェネズエラ攻撃のように簡単ではありませんよ」と、イラン攻撃のリスクを説明したことで、トーンダウンした。

ネタニヤフには不満が募る。2月11日、ワシントンに飛んで膝詰めの談判に臨んだ。ホワイトハウスでの協議は3時間に及んだという。「ハメネイを殺す好機です。我々の諜報機関モサドが彼と取り巻きたちの行動日程を正確につかんでいる。空爆すれば容易に目的が遂げられます」

ニュースサイトAXIOSによると、ネタニヤフは23日には電話をかけてきた。ネタニヤフというのは血に飢えたリーダーだ。ハマスやヒズボラなどの幹部たちを数多く殺害してきた。

「間違いのない日程と場所をつかみました。28日に攻撃すれば幹部たちを一挙に殺せます」

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トランプは根負けして「実行を検討しよう」と答え、26日までにCIAが情報を確認した。フロリダ・マールアラーゴの私邸内に作戦司令部が設置され、トランプは、27日の東部時間午後3時38分に攻撃命令を出した。マルコ・ルビオ国務長官とスージー・ワイルズ首席補佐官、ジョン・ラトクリフCIA長官らが同席した。

11時間後に攻撃が始まった。ミサイルは、イラン政府の最高幹部たちが会議を開いていたハメネイの私邸を直撃した。イラン国営放送は、アメリカとイズラエルの空爆でハメネイと娘、孫、嫁、婿が死亡したと伝えた。

ルビオ国務長官は3月2日、議会で証言後、記者団に「イズラエルの攻撃決断がアメリカの参戦を招いた」と明言した。

トランプが主導するMAGAを支持する論客の一人、タッカー・カールソンは自らが司会する番組で、「トランプはイズラエルに騙されて戦争に引きずり込まれた。これはイズラエルの戦争だ」と苦々しく言い放った。

支持者からも反対されるくらいだから、世論の反発は大きい。攻撃当初から、全ての世論調査で「攻撃反対」が多数を占める。ニューヨークタイムズは社説でこう述べた。

<トランプは大統領選の有権者に、戦争は終わらせるものであって始めるのではないと約束した。しかし、この1年、彼は7つの国で軍事攻撃を命じてきた……いまトランプはイズラエルと共同でイランに新たな攻撃を命じている……なぜそれを強行するか、国民と世界に説明することなく戦争を始めた。宣戦布告の権限を唯一有する議会にも諮っていない。 ただ、爆撃開始直後の2月28日午前2時30分に動画を投稿し、イランは「差し迫った脅威」をもたらしていると政府の転覆を呼びかけた。根拠は疑わしく、真夜中の動画で開戦を正当化するやり方は到底受け入れられない……>

日毎、時間毎に発言の変わるトランプのことだから、この戦争がいつまで続くか予測できない。16日には、「日本などはアメリカに感謝して海峡護衛の艦船を送るべきだ」と言い出した。大迷惑に「感謝」を求めるとは、正気の沙汰ではない。(敬称略)

Operation Epic Fury

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