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連載:Untitled, (Detail 128)|文・内田忠男(国際ジャーナリスト)
「正気」失ったトランプ
目覚めよ、アメリカの有権者
2026年5月1日号掲載|11
3月31日付読売新聞社会面のUSO放送に思わず笑ってしまう作品が載っていた。
<エープリルフール 年中無休――トランプ大統領> 埼玉県の「ふじ」さんの投稿だった。
そして翌4月1日、トランプはプライムタイムのテレビ演説に登場、「ふじ」さんの思惑通り、イラン攻撃についてウソ八百の戦果を並べ立てた。
<米軍はこの4週間で迅速かつ決定的な勝利を得た。イランの海軍と空軍は消滅し、テロリスト政権の指導者の多くが死亡、革命防衛隊の指揮統制は崩壊した。ミサイルや無人機の発射能力は劇的に低下し、兵器工場やロケット発射機は粉砕され、ほとんど残っていない。我々の軍隊は並外れている。イラン軍(の能力)を麻痺させ、テロリスト勢力を支援する能力を奪い、核爆弾の製造能力をなくす戦略目標をほぼ達成した……>
さらに事実上の封鎖状態になっているホルムズ海峡について、そこに依存している各国が率先して行動すべきとした上で、
<提案が二つある。一つはアメリカから石油を買うこと、もう一つは我々が求めたように、勇気を出してホルムズ海峡に行って守り、自分たちのために使うこと……アメリカの軍事目標は間もなくすべて達成できる。今後2~3週間のうちに極めて激しい打撃を加え、イランを石器時代に戻す……>
「石器時代」とは言いも言ったりだが、過去にこの言葉を発した要人は太平洋戦争中に日本本土を焼け野原にする焦土作戦を敢行したカーチス・ルメイ空軍大将だ。1960年から空軍参謀総長に就任、「北ベトナムを石器時代に戻してやる」と言ってジョンソン政権下の65年から北爆を強行した。北ベトナムは石器時代に戻ることなく、やがて米軍にも勝利するのだが、歴史の断片として、この言葉を憶えていたのか、stone ageという言い回しがよほど気に入ったのか、その後も折に触れて頻用している。

https://youtu.be/o-E7DIctrzo
ただ、この演説は正味18分間。いつもの長広舌を覚悟してテレビ画面を見たのだが、始まったと思ったら終わっていた。演説のトーンもロウキーで声にハリがなかった。本人は気乗りがせず、側近が、「中間選挙のためにも、この戦争が勝利していることを有権者に強調すべきです」と進言して、渋々カメラの前に立ったようだった。
演説のウソはすぐにバレる。3日には米軍の戦闘機F15Eが撃墜され、A10攻撃機も落とされた。イランの軍事力が消滅していれば起こり得ない出来事だ。F15の乗員一人はすぐに救助されたが、もう一人が行方不明になった。面子にかけた救出作戦が行われ、24時間余り後に特殊部隊に救出されたのだが、作戦に使われた特殊装備のC130輸送機2機がイランの現場で離陸できなくなり、爆破せざるを得なくなった。戦闘機1機の喪失が思いがけない手痛い損失を生むことになった。
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そんなドタバタ最中の5日、トランプは自身が開いたSNS、Truth Socialに文明国の大統領であれば決して使わない口汚い表現でイランを恫喝した。
「あのクソ海峡を開け、気狂い野郎ども……発電所や橋などのインフラをぶっ壊して石器時代に戻してやる!」――傍線部分の英語をあえて記せば、fuckin’ strait, crazy bastardsである。まさに知性のかけらもない、与太者の脅迫だ。ネットワークTVは、大統領の発言を子どもらに聞かせないよう注意を呼びかけたという。
私は好きでない政治家だが、民主党上院院内総務のチャック・シューマーが「大統領がSNSで狂った人のように振る舞っている。大統領の発言は戦争犯罪につながる恐れがあり、同盟国との関係を損なう危険がある」と非難した。バーニー・サンダース、クリス・マーフィー上院議員らも続く。サンダースはトランプの発言を「危険で不安定」と規定して議会の緊急対応を促し、マーフィーは、「正常な状態ではない」として、大統領の権限停止を規定した修正憲法25条の適用にまで踏み込んだ。
CNNによれば、6日の記者会見で、問題のSNS投稿について尋ねた記者の質問の途中で「批判など気にしない」とさえぎり、精神鑑定を求める声もあると追及されると「もしそういうことなら、私のような人間がもっと必要になるだろう。我が国は私が現れるまで長年にわたり、貿易などあらゆる面で搾取されていたのだから」と焦点ボケの答弁をした。その延長上では、「日本は助けてくれなかった……北朝鮮の脅威から守るために5万人のアメリカ軍兵士が駐留している」と不満を示しもした。
こんな大統領と向き合って、臆面もなく「今の世界に平和と繁栄をもたらせるのは、ドナルドだけです」などと見え透いた、かつ薄っぺらなおべんちゃらを言ったのが、日本の首相、高市早苗だった。顔から火が出る思いだ。
トランプは、東部時間7日午後8時という期限を設定、イランがそれまでに停戦に合意しなければ、イラン国内の橋や発電所など重要インフラを攻撃し「国全体を一夜で壊滅させる」と宣言。期限の時刻から数時間前には、「今夜一つの文明が滅びる」との予告も発した。
そして期限が2時間足らずに迫った時点で、突然「2週間の停戦」を発表したのだ。仲介役を務めるパキスタンのシャリフ首相らからイランへの攻撃を保留するよう要請を受けたとし、「イランがホルムズ海峡の完全かつ即時の安全な開放に同意することを条件に、イランへの爆撃および攻撃を2週間停止することに同意する」と表明した。
それにしても「一つの文明を滅ぼす」権限を誰がこの男に与えたのか?

イスラマバードで始まったイランとの1回目の対話は14時間余で決裂。その直後の12日には、ローマ教皇を真っ向非難し、自らをキリストに見立てたAI画像をSNSに相次ぎ投稿、画像の方はすぐに削除する行為に及んだ。本稿執筆時点で事態はまだ動いている。トランプが次に何を言い出すか、予測の外にある。
連邦最高裁から権限外とされた相互関税に始まり、温暖化防止に背を向けた諸施策、そして宣戦布告なきイラン戦争……世界経済はもとよりアメリカ経済も計り知れぬ被害を受け、選挙公約では起きるはずがなかったインフレが高進する中で消費マインドは史上最低に冷え込んでいる。
アメリカの有権者は、このような大統領に羞恥を感じないのだろうか? このような大統領に統治される不条理を感じないのだろうか? この男に投票したとしたら、間違いだったと後悔しないのだろうか?(敬称略)