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へりくだったトランプ、習近平は歯牙にもかけず

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【米中首脳会談】
へりくだったトランプ、習近平は歯牙にもかけず

2026年6月5日号掲載|6

5月14、15日の両日開かれた米中首脳会談。17日、ホワイトハウスのホームページが掲載したFact Sheetには
<大統領は中国と歴史的ディールを結び、アメリカの労働者、農民、産業界との約束を果たした>
と例の如く大袈裟で誇らしげな見出しが掲げられた。が、読み進むと、両首脳がイランに核兵器を保有させないこと、ホルムズ海峡の再開を求め「いかなる国や組織も通航料を課すことは許されない」との考えに合意したと記してはいるが、台湾を巡る問題や、米中が技術覇権を争うAIに関する記述はなかった。主たる成果として記載されたのは貿易面の合意内容で、中国がボーイング製航空機200機の購入を承認し、農産品を向こう3年間、年170億ドル購入する、米国産牛肉の輸入増に向けた措置を取ることも盛り込まれた。

しかし、「歴史的」と自慢する経済面の成果だけ見ても、アメリカを代表する先端企業のCEOをズラリ引き連れて行ったにしては得たものが少な過ぎた。航空機については、「500機売ってくる」と訪中前に豪語していたのに、中国が購入を示したのは半数にも満たず、確約とも言い切れない。9年前の前回訪中の際は、農産物の大量購入など2500億ドルもの商談をまとめ、トランプに大きな土産を持たせたのと比べれば天地ほどの差がある。

米メディアの評価も厳しい。首脳会談の初日を報じたニューヨークタイムズの15日付1面トップ記事の主見出しは
Trump butters up Xi, who stands his ground
butter upというのは「ご機嫌をとる」「おベッカを使う」「ゴマをする」という意味で、Xiはシー・ジンピンと読む習近平国家主席のこと。その習は「自身の立ち位置から踏み出さなかった」としている。

さらに袖見出しはSeeking quick deals vs. drawing lines
トランプが(へりくだって)ディールを急いだのに対し、習は一線を画した|つまり、物事の区別をはっきりさせる対応をした、とした。

ニューヨークタイムズ紙
米中首脳会談初日を報じたニューヨークタイムズ紙の15日付1面 (Courtesy of The New York Times)

そして、17日付ニューズ・アナリシスでは、次のような見出しをつけた。あえて邦訳するまでもあるまい。
Trump calls Xi a ‘Friend.’ but he left China without any breakthroughs.

各種報道を総合すると、習近平は首脳会談の冒頭から台湾問題を取り上げ、「適切に処理できなければ両国は対立・衝突し、中米関係を極めて危険な境地に追い込むことになる」と警告したとされる。しかも習は「トゥキディデスのわな」まで持ち出し、「米中両国はこの状況を乗り越えることができるか」と問いかけた、という。

「トゥキディデスのわな」というのは、ハーバード大学でケネディ行政大学院の初代院長を務めた政治学者グレアム・アリソンが、新興国が既存の大国の地域的・国際的な覇権を脅かそうとすると、必然的に戦争に走る傾向があるという主張を説明するために使った言葉で、米中関係を分析する用語として2015年に広く普及した。

ことは紀元前5世紀に古代ギリシャのアテネとスパルタの間で起きたペロポネソス戦争にさかのぼる。ペロポネソス半島(現在のギリシャ南部)に勢力圏を拡大していたスパルタに、アテネを中心とした新興都市国家群が秩序改変を目指して挑んだ戦いで、古代ギリシャの歴史家トゥキュディデスが、「勃興してきた新興国アテネが大国スパルタに恐怖を抱かせたことが戦争につながった」と分析したことを想起したものだ。申すまでもなく習近平は、アテネを中国、スパルタをアメリカに擬し、「アメリカが態度を改めないと、戦争になりかねませんよ」と警告したものと考えられる。

習はかねてから、台湾こそが中国にとっての「核心的利益」と繰り返してきた。今回の首脳会談では、トランプに「台湾の独立に反対する」と明言させ、できれば「台湾への軍事支援をやめる」と言わせようと、手ぐすね引いて待ち構えていた様子だった。

習近平とトランプ
2026年5月14日、中国・北京の人民大会堂で習近平中国国家主席(右)の歓迎式典に参加したトランプ大統領(左)
(Official White House Photo by Daniel Torok)

会談後、北京市内の世界遺産、天壇公園を案内されたトランプは、苦虫を噛み潰したような渋い顔をしていた。後に、「台湾については何も約束していない」と強弁したが、何らかの密約を強要されていたとしても不思議ではない。

首脳会談を迎えるにあたって、トランプには焦燥感があったはずである。

イズラエルのネタニヤフに焚き付けられ、イランに仕掛けた宣戦布告なき戦争が泥沼にはまりつつある。新春早々のヴェネズエラ急襲で味をしめ、イランの石油も手に入るという期待が空しくなったばかりでなく、予期できなかった経済混乱を招き、11月の中間選挙がいよいよ危うくなっている。イラン産原油の9割を買い付けている中国に戦争終結への活路を開いてもらいたいという身勝手な願望があったはずだ。

その願望を遂げるために、「友人」と呼ぶ習氏への称賛を繰り返した。初日の首脳会談から中国指導部が拠点を構える中南海の散策までの間のトランプ語録を並べてみると、
「我々はすばらしい関係を築いてきた。米中関係はかつてないほど良好になるだろう」「困難な時期でも我々はうまくやってきた。問題が生じる度に、私があなたに電話し、あなたが私に電話し、我々はすぐに解決してきた」(冒頭)
「あなたは偉大な指導者だ。米中関係はかつてないほどに良くなる」(晩餐会)
「非常に感銘を受けた」「関係は非常に強固だ」(15日中南海)
日頃の乱暴下品な言動を終始封印し、誠に涙ぐましいばかりの秋波を送り続けたのだが、肝心の習近平がそれに乗ってくれなかった。

9月には習夫妻をワシントンに招待するとも発言した。10月にはAPEC=アジア太平洋経済協力会議のサミットが中国・深圳で、12月にG20のサミットがマイアミで開かれる。順当なら年内に3回の首脳会談が予定されるが、トランプはどこまでへりくだり続けるのだろうか。(敬称略)

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習近平とトランプ

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