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米大統領という「最強のビジネス」 純資産1兆850億円、消えた監視の目

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米大統領という「最強のビジネス」
純資産1兆850億円、消えた監視の目
文・内田 忠男(国際ジャーナリスト)

2026年8月7日号掲載|11

6月30日、連邦政府倫理局は、ドナルド・トランプが提出した25年の資産報告書を公開した。927ページにも上る大冊だから、とても自力で閲覧はできない。ウオールストリート・ジャーナルやフォーブス、ブルームバーグなどメディアが伝えるところを総合して把握に努めた。

結果、大統領という地位と職権を利用したとしか思えない錬金術が明らかになった。この大統領は、金銭欲という点でも過去に例を見ない倫理無視、自己中心の行為を重ねているのである。それはもはや、greedyなどという言葉の範疇を超えた強欲ぶりで、利益相反や贈収賄など犯罪の匂いがする。

アメリカ大統領の年俸は40万ドルである。1ドル162円台の現行円安水準で換算すると、6480万円になる。大統領の日常はほぼ全ての支出が税金で賄われる。4000万円弱の日本の首相に比べ、価格水準が違うにしても、潤沢な所得と言えるだろう。ところが報告書に申告された25年の年間所得は24億ドル、3900億円弱に上る。

大統領年俸の実に6千倍であった。

大統領に復帰してから、年間の所得は3倍超になった。大統領でいることが「最も儲かる興行」のようだ。トランプ自身は、「株の相場を見れば投資家が儲けているのは解るだろう。ただ、わしの株投資は代理人任せだ」と言っているようだが、24億ドルには、株式の売却益は含まれていない。収入のかなりの部分に当たる14億ドルは暗号資産から得ていた。

暗号資産は仮想通貨とも言う。かつてトランプは、これを「実体がない」と批判していた。いつの間にか宗旨替えして、荒稼ぎの柱にしていた。

「$TRUMP」という自らの冠をつけた暗号資産(ミームコイン)を新しい経済状況に疎い支持者らに売り出した。その価格は1年前に比べ9割近く下落している。大半の購買者が壊滅的な損失を被ったが、トランプは6億3500万ドルの収益を得た。

暗号資産による残り8億ドル近い収益は中東で、ワールド・リバティ・ファイナンシャル=WLFという暗号資産ベンチャーが稼ぎ出した。トークン販売で5億ドル以上を得ており、ここでも購入者は少なからず損をしているはずだ。

この会社の社長はザック・ウィットコフといい、「中東特使」の肩書きで湾岸諸国の王族からロシアのプーチンまで、トランプの密命で動き回っているスティーブ・ウィットコフの息子だ。スティーブは不動産業仲間で古くからトランプの親友だった。イズラエルの攻撃で破壊し尽くされたガザ地区を「中東のリヴィエラにする」と言い、ロシアにも高級リゾートか、「トランプ・タワー」を立ち上げることを狙っているトランプの〝先兵〟的な役割を付与されているとされる。不動産開発に関する周辺情報の収集だけでなく、時には事業化に向けた交渉もしているという。

WLFは持分の半分に当たる2億 6300万ドルを中東企業に売却した。

ウオールストリート・ジャーナルは、今年1月、「秘密とされていたWLFの中東での取引相手は、UAE=アラブ首長国連邦大統領の弟で、有力王族のタフヌーン・ビン・ザイド・ナハヤンが配下に置く事業体」とすっぱ抜いていた。WLFの残りの収益は、トランプ・ブランドの高層ビルやゴルフコースを開発した中東企業2社から得たもので、この両社も王族が糸を引いている。

UAEやカタール、バーレーン、オマーン、それにむろんサウジアラビヤを含めた湾岸諸国は「脱オイル」を目指し、国家戦略としてアメリカへの大規模投資に積極的な姿勢を見せ、トランプの歓心を買おうと種々画策している。カタールは、中古とはいえ、ジャンボ旅客機をトランプに贈呈した。トランプは喜んで受け取り、大統領専用機に改装して最近使い始めた。

トランプ大統領
2026年6月19日、統合基地アンドルーズで、カタール政府から贈与された新しいエアフォース・ワン(VC-25B Bridge)を視察したトランプ大統領(Photo courtesy of The White House)

暗号資産以外では、〝本業〟というべき不動産業がある。かつては高級コンドミニアムやホテル、ゴルフコースなどを開発していたが、近年は自社開発は少なくなっている。代わりに、「トランプ」の冠を売り、そこからライセンス収益を得る事業が群を抜いて活発な分野になった。世界中の不動産開発業者が自社のプロジェクトに「トランプ」の冠をつけ、ライセンス料を支払う仕組みで、湾岸諸国の開発企業各社からも3800万ドルを受け取っている。

さらに、フロリダにある自宅兼会員制クラブ、マールアラーゴからも約8000万ドルの収入を得ている。入会金や年会費、飲食や宿泊で得たというが、途方もなく高価なクラブで、トランプの支援を得たい内外の金持ちが大金を支払っている。これも大統領というポストの威光がもたらしたのであろう。

それやこれやで、トランプの純資産は67億ドルに達する。現在のレートで換算すれば、1兆850億円余――信じられますか?

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これだけ派手に利益を上げていれば、利益相反、税務手続きへの疑念など、さまざまなコンフリクトも生ずる。現に大統領選があった24年には、ニューヨークの裁判所が「民事詐欺」と判断したケースもあった。しかし、こんなことで挫けるタマではない。直ちに反訴して法廷闘争に持ち込む。

この資産報告書が公開される少し前に、耳を疑うような常識を超えた特権をトランプは手にしていた。

IRS=内国歳入庁は、これ以降、トランプ本人と家族、関連企業に対し、過去の税務申告に関する調査を「永久に」できなくなった、というのである。

トランプは、自らへの税務調査の過程でIRSが自身の納税記録を不正に流出させた、として100億ドルの支払いを求める訴訟を起こしていたが、司法省が和解案を提示、その「追加条項」としてひっそり書き込まれていたのがこれだった。プレスリリースによると、過去の政権によって「武器化された」個人や団体への補償を目的とした約18億ドルの基金を設立する合意も含まれている。同基金は、21年1月6日に発生した連邦議会議事堂襲撃事件の参加者などにも支払われるそうで、犯罪者として起訴されたトランプ支持者たちに恩恵をもたらすことも見込まれている。

そもそも和解に「追加文書」をつけること自体、異例の措置で、それが大統領とその家族に直接利益をもたらす内容になっている。大統領が起こした訴訟を、その政権が解決するという行為自体、重大な「利益相反」となる疑いが濃い。この訴訟について、法廷で審理すべきかどうか判事が調査する可能性が浮上すると、トランプは突然訴えを取り下げ、司法省に命じて、「和解」を工作した。

その追加文書にはブランチ司法長官代行の署名が入っている。それによると連邦政府は、IRSで係属中の事案に起因する「訴追」や「請求」、あるいは「調査」を「永久に禁止、差し止められる」としているのだ。

政権の行政機関に自分たちには「触らない」ことを約束させれば、あとは「やりたい放題」――正当性が疑わしい場合に調査する権限さえ無きものにした。

こんなことが、真っ当な法治国家で許されるものなのか。アメリカは、もはや真っ当な法治国家ではなくなった、と見るしかない。(敬称略)

トランプ大統領

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