よみタイム|2024年11月29日号・Vol.483デジタル版 & バックナンバーはこちら

塚本晋也監督&森山未來「ほかげ」

第17回「ジャパン・カッツ」
「ほかげ」塚本晋也監督 & 森山未來

塚本監督「戦争にブレーキを」
森山「自らのバックグラウンドを作品に反映させたい」

戦争をテーマに描いたヒューマンドラマ「ほかげ(Shadow of Fire)」。終戦直後を舞台に、共に家族を戦争で亡くした女性と子どもが出会う。絶望を感じながらもそこで力強く前向いて生きる人々を、少年の視線で描かれた話題作。

今年のジャパン・カッツで、森山未來は「カットアバブ賞」を受賞した。

塚本晋也監督 & 森山未來
ジャパン・ソサエティでインタビューに応じる 森山未來(左)と塚本晋也監督(Photo by KC of Yomitime)
戦争孤児の少年について

塚本監督

この映画はひとえに、子ども達の未来がどうか幸せでありますように、という願い、思いです。それにつきますね。とにかく戦争に行くのは若い人たち。彼らが命を落とさないように、といった強い思いがありましたので、子どもを主人公にし、彼の視点で描きました。

現在、実際に戦争のニュースが毎日飛び込んできます。なんでだろうという疑問がある。それでも今、実際に戦争を体験した人は多くはありません。まして日本で、戦争経験者はもういません。ですが、この映画を通して戦争は悲惨な結果しか生まない、ということを感じ取って欲しいと思っています。実際、戦争が起きていますが、誰かが止めるべく、ブレーキをかけてくれないか、と思っています。

限られた空間の中で戦争の悲惨さを描く

塚本監督

本当は大きな闇市の世界を描きたいという希望・構想は持っていました。闇市で暗躍するヤクザ、テキ屋、ぐれん隊、パンパンと呼ばれていた人、戦争孤児などを描きたかったのですが、すべてを描くわけにはいきませんでしたので、小さくしていった結果、こういう設定になりました。小さな空間の外では何が起こっているのか、というプロットも書きました。

最初は、「狭い空間内の話だけで果たして伝わるのか?」という心配はありました。とはいえ、すでに内外の話がいろいろあったこともあり、結果的には上手く描けたのではないかと思っています。

もともとアメリカン・ニュー・シネマを見て育ったこともあり、どこかで「人間の中には暴力的な部分がある」と考えていました。昔は「ガス抜き」のような要素もあって作っていましたが、暴走してしまう人たちをストレートに描いてきました。ですが、自分自身の気持ちや時代の変化もあり、今は、直接的に暴力や暴走を描くのではなく、「こんなふうにはならないように」という思いで描いています。

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登場人物に役名が無い理由

塚本監督

脚本を書きはじめた当初は意識しなかったのですが、書き進めるうちに、戦争で犠牲になった人々は何万何十万といるのに「名前がなくてもいいのだろうか?」という疑問が湧いてきました。ですが、最終的には、名前は無いけれど、こんなにも様々な人生があるんだよ、という点を描こうと考えました。

「怖い人」になれなかった兵隊さん

塚本監督

戦争では、殺されないために、相手を殺さなければならない。日本に帰ってくるために、非情に徹しなければならなかった。すべての復員兵がそうだった訳ではないとは思いますが、極限状態に置かれた復員兵の中には、そんな人たちがたくさんいます。

戦地で亡くなったのは「怖くなれなかった人」だったということを、子どもの視点から言葉にしています。

塚本晋也監督 & 森山未來
上映後、質疑応答に応じる森山未來(左)と塚本晋也監督(Photo © Ayumi Sakamoto)
復員兵を演じて

森山未來

僕が演じた復員兵に限らず、みんな戦争によって引き起こされた深い傷を抱えています。脚本を読んだ時点ですごく引き込まれました、特に、私が出演していない前半部分。私の登場は後半ですが、役作りという面で、自分からこういう風にアプローチしようというスタンスではなく、すばらしい脚本に忠実に、監督が求めるキャラクターを演じ切りたい、という思いで撮影に入りました。

「カットアバブ賞」受賞について

森山未來

「カットアバブ賞」をいただいたことを、非常に嬉しく思っています。2022年に同作を撮ったのですが、撮影、上映、そして今回の上映でニューヨークの地に立てたこと、心身両面で素晴らしい旅に導いてもらえたことを嬉しく思ってます。この作品に出会えたことに感謝です。

映画、パフォーミングアーツのことも含めて、日本で行われているパフォーマンスや文化と、アメリカやヨーロッパでのパフォーマンスや文化は、当然ですが違うものがあり、それらはどちらも面白い。どういう風にヨーロッパ・アメリカと、自分たちの文化を関わらせればいいのかという点は、常に考えています。

そんな環境の中、ずっと活躍され、ずっと日本で映画を撮り続け、とてつもない純度と強度で映画を作り続けてきた塚本晋也さんと、今回、出会うことができました。その出会いが、今回の「カットアバブ賞」に繋がったのだと思います。大変光栄に思っていると同時に、やはり日本で作り続けている塚本さんが、こうして皆さんに愛され、変わらず評価され続けているということに、意味があると感じています。それが「何か」という部分は、パフォーマーでクリエーターである自分も、これから模索していきたい。この賞を励みに、今後も探求していきたいと思います。

役作りのための視点とは

森山未來

過去に海外でも色々経験してきましたが、やはり日本にいては見えてこないもの、海外に出て、初めて見えてくるものは無数にある。グローバリゼーションが加速する中で、そういった視点は持つべきだ考えています。海外に出たいという思いもありますが、まずは自分のバックグランドをどう作品や演技に反映させられるのか、そこを大切にしていきたい。

森山未來
「カットアバブ賞」を受け取り、舞台挨拶する森山未來(Photo © Ayumi Sakamoto)
塚本晋也監督 & 森山未來

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