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 よみタイムについて
 
よみタイムVol.59 2月23日発行号

 [其の7]


「気」治療師・新倉勝美
娘の脳腫瘍を完治させた
大男を「気」で倒すデモで証明

 それは奇妙な、マジック、あるいはいんちきな手品、見せ物とも思えた。ビデオテープに収められているので、変にトリッキーな感じがした。白い柔道着のようなものを着た一人の小柄な男が、野原のような所で一列に並んだ7、8人の大男たちを、片手をかざすようなしぐさで吹き飛ばしていたのだ。男たちはそろって、風に吹かれる木の葉のようにきれいな放物線を描いて尻もちをついた。「気」を使って不可能なことを可能にするというので、この情景はテレビでも放映されたという。まあ、確かに見せ物として面白かったのだろう。「やらせではないか」と言う人も多かった。
 しかし、この男は真剣だった。日本でさまざまな格闘技を修行し、空手では国内で首位にいたこともあった。しかし、いったん強くなると、新倉はある種の虚しさを感じ始めた。勝つことだけを目的にこれからも生きていくのか。自分は闘牛なのか。勝負の世界で生きているだけあって闘志は誰にも負けない。しかし、それだけでいいのか。
 新倉には幼い娘がいた。ある時7歳のその娘が脳腫瘍と診断された。手術が施された。しかし再発。再び手術。それをまたくり返し、もう一度再発したら見込みはない
と医師に言われた。新倉は病む娘を見て、どうしても自分の力で治そうと決心した。
 包帯に包まれた娘の頭を両手で軽く包み、自分の呼吸で気を入れた。毎日長時間、それが彼にとってできることのすべてだった。4年かかって娘の脳腫瘍は完治した。
 子供のころから新倉は、自然の観察が好きだった。小柄で喧嘩に弱かったので、小さな生物のエネルギーの使い方に興味があった。急な川の流れに逆らって泳ぎ進む小
さな魚、自分の身体より大きな荷物を背負って歩く蟻、なぜそんなことができるのか。
 新倉はある時、大木をゆるがせる風の力に気がついた。
 動いていない時には何の抵抗も感じさせない空気が、いったん動くと大きな木を揺らせるほどの力を持つ。あの小さな魚も蟻もきっと、空気を動かして身にあまるエネルギーを出しているに違いない。新倉は、自分も蟻のように空気を動かしてみようと思った。自分の空気とは、呼吸だった。独自の方法で強い気(エネルギー)を生む呼吸法をあみ出し、新倉は強い格闘技の闘士になっていった。しかし娘の病気の回復によって、気で人の病いを治せると気付いた新倉は、これこそが自分の探していたライフワークだと気付き、それ以後は格闘技からは身を退いて、ヒーリングの気の実践と研究と教育に没頭していった。
    ◇
 83年体育の教師としてミシガン州の高校に招かれてからも、自分では気を優先していた。
 しかし、当時、気を理解する人はほとんどいなかった。ましてや気による難病の治療などに耳を貸す病人やその家族もなく、目に見えない気をどう証明すればいいのか、新倉自身にも分らなかった。格闘技の弟子の大男たちを気でなぎ倒すデモンストレーションは、新倉の最後の手段だったとも言える。それでもなかなか信じてもらえなかった。しかし、現代医学に見放された難病の患者や家族からは、その頃から藁をもすがるように問い合わせが殺到した。
 「気の力は生命力ですから、身体の病んだ部分に強いエネルギーを与えて、回復するのです。ガンは、気で動かして、ガンの根を断つのです。しかし難しいのは、どういうふうにすればガンに気を入れられるのかという問題です」。
 患部に気を入れるのはおもに掌からだが、時には膝やひじ、頭の上、足も使う。木の棒、紙、水なども使う。電話でも気を送る。新倉のあみだした気を入れる方法は1万種以上あるそうだ。
 いつもは古典的な侍のような新倉のヘアスタイルが、突然パンチパーマに変わったことがあった。眼球内にできたガンに気を送るために、曲線状の細い繊維を使うこと
を考え、その材料として自分の髪の毛にカーブをつけたのだった。
 新倉がニューヨークで気を教え治療するようになって、もう12年が経つ。
 治療を手伝う生徒も育ち、新倉の治療の助手として活躍している。「どんどん実践するほどいい気が出るようになる」と新倉が励ます。「気の治療が今後発展していくためには、生徒の協力がどうしても欠かせませんからね」と、60歳を越えたばかりの新倉はいう。
 新倉の助けを求めた患者の数はこの12年間で何千人か、アメリカやメキシコの各都市、イタリア、ドイツ、スイス、ポーランドなどのヨーロッパの国々、日本全国に散在し、数え切れない。みな生命を巡るドラマチックな物語を残した。「気は生命力、生命を慈しむ愛だ」という。新倉をはじめとする気のヒーラーたちは、ほとんど無償で天職に励む。
 「病気の人がよくなって喜ぶ、それが私たちの最大の報酬です。生きている人なら誰でも気を出せます。超能力ではありません。それを修得して、ぜひこの喜びを体験してほしいです」。
 気はもうスキャンダルではなくなった。どこの書店にも気をテーマにした本が並び、健康指向の世相を反映している。それでも新倉は時に合気道の技で人を驚かし、気の原点を忘れないでいる。
(Photo By Mari Ishiko)
新倉勝美(にいくらかつみ)=元空手チャンピオンの気治療師。独自の気治療法の創始者。国際「気」綾空会創立者。67年に日本で、71年にアメリカで行われた空手の世界選手権で優勝している。