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よみタイムVol.49 9月22日発行号

 [其の4] 八木秀峰と日本のまつり



イーストビレッジをみこしを担いで練り歩く

祭りを指揮する八木さん

若山さん(左)ら仲間も応援してくれた

八木秀峰と日本のまつり
ビレッジで秋祭り
地元民との交流目的

 日本人があまり足を向けなかったイーストビレッジを、日本人町にしたいという気持ちを八木秀峰さんは持ち続けていた。
 70年代にニューヨークに来て、ここで同郷の若山和夫さんと2人で八百屋の店を開き、やがて24時間営業のスナックを開いた。その後、2人とも独立し、レストラン経営の成功者となった。原点のイーストビレッジに対する愛着は大きい。彼が開いたすしがメインのレストランもこの近辺では早かった。
彼のオフィスの一角には、今すぐにでも担ぎ出せそうに金色の神輿(みこし)が置いてある。オレンジ色のリボンが華やかさを添えて。
 5年ほど前までは、毎年秋にイーストビレッジの祭りが催され、その度に華やかな主役として付近の威勢のいい男女に担がれての出番があった。
 80年代、日本のバブル経済の余波のせいか、イーストビレッジは日本の若者で埋め尽された。アメリカのマスコミは「この近辺に3000人以上の日本人が住み、ほとんどが若い女性で、ニューヨークの英語学校は彼女たちで埋まっている」と報じた。
 ゼロから出発したかつての日本脱出組と違って、この若者たちは安い航空運賃の恩恵をフルに利用して、国内旅行と同じような気分でニューヨークに来ていた。有名店の情報は現地にいる私たちより詳しく、買い物に観光にと精力的に動く。家賃が手頃だったのか住みよかったのか、イーストビレッジは若い日本人で溢れた。日本のレストランも多くなった。そこで働く人も増えた。
 そういう時に、事件は起きた。1989年、若い日本人の青年が自宅で強盗に押し入られて殺害され、イーストビレッジの日本人社会にショックが走った。
 領事館や市警関係者とイーストビレッジの住人たちとの話し合いがもたれた。出席者にレストラン関係者が多かったのは、事件の犠牲者がレストランの従業員だったか
らだ。
 かれらの反発をよんだのは、領事館側からの提言だった。
 「このような治安の悪い地域に日本人が住むのは好ましくない。できるだけ早くアップタウンなど、治安のいい所に引っ越したほうがよい」。
 イーストビレッジを愛し発展のために努力している地元日本人たちはこの提言に失望し、やはり自力で解決しようという方向に傾いた。
 どうすればよいのか。八木さんの考えは、お上に頼らず、地元のニューヨーカーと交流し、地域のよき一員となることだった。そうすれば何かの時にはよいアドバイスももらえるにちがいない。
 イーストビレッジで日本の秋祭りをやろう。祭りに地域の人たちを招いて、日本の庶民の文化をよく知ってもらおう。地域のレストランオーナーたちも賛同して、準備のために青年会を結成した。人気すしシェフだった中西茂秋さんらが活躍し、皆が役割分担してはじめての秋のイーストビレッジ祭りが実現したのは1990年だった。
 八木さんの故郷の千葉県波崎町は、お祝いに神輿を送ってくれた。
 当日は秋晴れで、祭りは大成功だった。
 法被に鉢巻姿で神輿を担ぐ威勢のよい青年会会員たちや近所の人のかけ声が、屋台の並ぶ短い9丁目の1ブロックを何度も練り歩いた。仮設のステージでは、日本人の若いロックバンドが演奏し、お好み焼きの匂いが漂う。郊外から繰り出した日本人家族ずれの姿も多かった。
 難を言えば、人の出が多すぎたことかもしれない。何か起きなければいいと、青年会員たちは気が気ではなかったが、大事件は起きなかった。地元の人々は喜んでやってきて、日本の屋台食をたべたり、金魚すくいに興じたりした。
 「治安のため、何よりよかったのは、ストリート・イベントをやったおかげでニューヨークの警察や消防署と親しくなったことだ」と八木さんは言う。
 だが、八木さんたちの仕事はこれだけでは終らなかった。若い日本人たちはつぎつぎと問題を持ち込んで来た。アパートの保証人がいなくて借りられない。つき合っているアメリカ人がドラッグをやっている。お金を盗まれた。ビザや仕事の問題など、ありとあらゆる相談事がきた。八木さんのオフィスの名前の「T・I・C」は、トータルンフォメーションセンターの略字。私設相談所だ。さまざまな奉仕活動にも忙しい。
 しかし、日本のバブルの崩壊、アメリカの移民法の改編などいろいろな要因で、若い日本人の異常な群れは去った。青年会は白髪の中年会になったが、今、活動家の竹永浩之さんら、新しい祭りの担い手が現れている。