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よみタイムVol.107 2009年2月20日発行号

 [其の28]


先住民の伝言を映画にした松下俊文監督

「アンデスの風」撮りたかった
7年かけた大作、費用全て自己資金でる

撮影中の松下俊文監督

「パチャママの贈りもの」からの1シーン

 一本の長篇映画を自分一人で制作するというのは、誰にでもできることではない。
 たとえ低予算といってもかなりの制作費がかかるし、一人でといっても、多くの協力者が必要だ。だから彼が最初のシナリオを書き上げた時、ほんとにこの映画が完成するとは、誰も思っていなかった。
 だが、それから約7年たった昨年8月、ついに完成した。松下俊文監督作品、104分の大作である。それまでのテレビ会社の下請けのような仕事を一切やめ、自分の働いてためた資金を全部注ぎ込んだ。制作スタッフも機材もすべて現地で調達した。借金はしなかった。ほんとの自主制作である。
 夕日に映えて燃える、ヴァーミリオンに光る雲の群れがゆっくりと形を崩しながら、なだらかに丸みを帯びた地平線をくっきりと描き出している。素朴なケチュアの子
供たちが、無限に広がるその地平線に向かって全身で走る。
 眩しく白く光る広大な塩湖から、氷塊のように塩を切り出す男たちの顔は燻し銀のように渋く、 塩を入手した農家の主婦が、収穫した穀物の山を指して「好きなだけ持っていっていいよ」と言う。
 生命の誕生と死を司るとされる大地の母「パチャママ」。その祭りは、この世とあの世のリユニオンのパーティー。全ての恵みはパチャママから与えられると信じていることの幸せに人々は酔う。
 初め『少年の夢』というタイトルでシナリオを書き、制作していた松下さんは、先住民の信仰の純粋さを知って、『パチャママの贈りもの』に変えた。スタッフも出演者もすべて現地の先住民族ケチュアとアイマラの人たちで、出演者は素人。松下さんによると、言葉もケチュアとアイマラが混ざっているそうだが、私たちには分からない。字幕はスペイン語版と日本語版がある。
 先住民族の言葉のせりふは単純で短い。理屈がない。人間はこのくらいの会話で心が通じるのだ。メディアが少ないほど、人間の想像力は育つ。
 美しい夕焼けをバックに子供たちが走るラストシーン。そこに『南米に住む先住民の人々、とりわけケチュア、アイマラの少年少女たちに捧げる』の献辞が入る。
 「ここに、この風景の上に吹いている風。この風を撮りたかったんですよ」彗星のようにつかの間、謎の詩をちりばめながら去ったアルチュール ランボーが好きだという松下さんは、思いをこめてため息をついた。
 この映画を大きいスクリーンで見たいと思った。そう思ううちに、その8月にはモントリオール映画祭、9月にはサンパウロ国際映画祭、バンクーバー国際映画祭で上映され、ボリビア先住民映画祭にも招待されて、映画制作に関わった人た
ちとも感激の再会をし、上映は大成功だった。
 5月には、ボリビアのラパスにある国立劇場で上映され、ケチュア語保存のために、ボリビアの小学校にDVDが配られることも予定されているという。
 グローバリゼーションが叫ばれて、世界中が同じように利益中心の資本主義社会になってしまったと思っても、地球上には何億年も培ってきた人類の文化が至るところにそれぞれ深く根付いていて、それはしぶとくひっそりといつまでも残り、絶えることはない。それこそ人間の救いだと、この映画は思わせる。
 この映画にとくに政治的なメッセージがあるわけではないが、スペインに征服された16世紀までインカ帝国の一部として栄えたこのアンデスの高地とニューヨークを、松下さんが7年間も往復してこの映画制作に熱中したのは、この地球上にこうした野草のような逞しい文化が残っていることに感動し、世界は腐敗した強欲だけに支配されているのではないということを言いたかったからだろう。あなたのメッセージは、広く届きつつあると言いたい。
 松下さんは、1950年兵庫県加古川市生まれ。京都にある松竹の撮影所でアシスタント・プロデューサーに。79年にニューヨークへ来てNYUで映画制作を学び、日系テレビ会社エンテルのプロデューサーになった。その後は独立してドキュメンタリー、TVプログラムを手掛けてきたが、7年前にそうした仕事をすべて止め、この映画制作に集中した映画青年(壮年?)。
 これまであった製作中のトラブルや難問をすべて忘れ、今、彼は一皮むけたようにさっぱりしている。

『パチャママの贈りもの』は、3月29日(日)午後7時から、パークローのアメリカン・インディアン国立美術館で行われる先住民映画祭のクロージング作品として一般に上映される。
Smithsonian Institution National Museum of American Indian
One Bowling Green, New York City.