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2025年2月14日号掲載|04
創刊100周年記念展
雑誌初のピューリッツアー受賞
「ザ・ニューヨーカーの100年」
ニューヨーク・タイムズ紙の記者であったハロルド・ロスと、妻のジェーン・グラント=写真①=が、1925年2月21日に創刊した雑誌「ザ・ニューヨーカー(The New Yorker)」。創刊100周年を記念してミッドタウンのニューヨーク公共図書館(New York Public Library、以下NYPL)で2月22日(土)から2026年2月21日(土)まで、「ザ・ニューヨーカーの100年(A Century of The New Yorker)」と題された展示会が開催される。

創刊から現在まで、ニューヨーク市の話題を中心に、文化、芸術、政治、経済など、幅広いトピックを網羅。著名な作家作品や、本格的なエッセイ、独自取材の報道記事、フィクションなどを、ユーモア溢れる風刺漫画や挿絵とともに掲載。2014年には、アメリカの報道分野で最も権威のあるピューリッツアー賞を、雑誌として初めて受賞している。
展示は、NYPLの豊富なアーカイブから集められた原稿や写真、イラスト、漫画などに加え、他団体から借り受けた貴重なアイテムなど多数。時事ネタや季節をイラストで表現した特徴的な表紙の数々も紹介される。
創刊号の表紙イラスト=写真②=を描いたのは、同誌の初代アート・エディターを務めたグラフィック・アーティストで漫画家のリー・アーヴィン(Rea Irvin)。知性を感じさせる「片眼鏡」を手にした紳士が、気まぐれというイメージを持つ「蝶」を観察しているという構図だ。この紳士は後に「ユースタス・ティリー(Eustace Tilley)」と名付けられ、同誌のマスコット・キャラクターとして定着。毎年、創刊記念日に近い号に登場する他、同じポーズをとった話題の人物や動物などが表紙を飾っている。
ちなみに、「The New Yorker」のアルファベット文字(フォント)をデザインしたのもアーヴィンで、このフォントは「Irvin type」と名付けられた。

生涯で86枚の表紙を手がけたルーマニア系アメリカ人アーティスト、ソール・スタインバーグ(Saul Steinberg)。その多くはニューヨーク市の風景を描いたものだった。ファシズムが吹き荒れたヨーロッパから逃れ、1942年、NYに移住。マンハッタンを縦横に走る大通り、にぎやかな歩道、黄色いタクシー、自転車、鳩など、地元住民にとって見慣れた風景に、新たな視点を提供。スタインバーグのアイコン的作品「9番街からの眺め(View of the World from 9th Avenue)」=写真③=では、9番街からハドソン川を挟んでアメリカ大陸(右にカナダ、左にメキシコ)、太平洋の先にはロシア、日本、中国が描かれており、「ニューヨークが世界の中心である」こと表している。
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原爆投下後を伝えた記事「ヒロシマ」
1946年8月31日号全体が、ひとつの記事「ヒロシマ(HIROSHIMA)」にあてられた。筆者は従軍記者として「ライフ」誌や「ザ・サン」誌に寄稿していたアメリカの作家ジョン・ハーシー。同誌は、当時あまり触れられることがない核爆発の影響について、目撃者の証言を用いて記事を書くようハーシーに依頼。現地に赴いた彼は、多くの人々にインタビュー、最終的に6人の被爆者にフォーカスした記事を完成させた。
当初は4号に渡って紹介する予定だったが、1号だけですべてを掲載することにした編集部は、記事が始まるページの下部にメモを掲載。「たった一発の原子爆弾で、ほぼ完全に消滅した都市と、そこに住んでいた人々に何が起こったかについて、本号すべてのページを割きます。この兵器が持つ信じられない程の破壊力を理解している人がほとんどおらず、誰もがその影響力について考える必要があると確信しています」
「ヒロシマ」掲載号の表紙は、夏の公園で楽しそうに過ごす人々のイラストで、悲惨な記事との対比に編集者の狙いが見えてくる。1本の原稿だけが掲載された号は後にも先にもなく、初版30万部はすぐに完売。世界中で話題となり最終的に300万部以上を売り上げ、掲載から2ヵ月も経たないうちに、書籍として出版。「ヒロシマ」は、20世紀アメリカジャーナリズムの最高傑作だと評価されている。
今回の展示には、「ヒロシマ」に関するハーシーと担当編集者ウィリアム・ショーンの書簡なども公開される。
A Century of The New Yorker
■2月22日(土)〜2026年2月21日(土)
■会場:NY Public Library(Rayner Special Collections Wing & Print Gallery)
Fifth Ave. and 42nd St.
■観覧無料
■https://www.nypl.org/events/exhibitions/new-yorker-100-preview