2019年12月20日号 Vol.364

文:佐々木香奈(猫グルーマー)
NCGIA (National Cat Groomers Institute of America) member


ピッツバーグで開かれたペットエキスポの「猫グルーミングブース」で。私のグルーミング師匠でマスター猫グルーマーのジャスティン(左)と、同じくマスター猫グルーマーのマディソン。●写真右上=マディソンの愛猫、スフィンクスのオフィウス ●写真右下=実習中の筆者

猫のグルーミングニーズ

「猫は自分で毛繕いするから、人間によるグルーミングは必要ない」と思っている猫の飼い主は多い。私が2018年の夏、愛猫ルフィーを毛玉地獄から救うために、「猫グルーマーになるぞ」と宣言したときの、周囲の友人たち(みんな猫の飼い主)の反応を見れば分かる。
しかし、私は猫グルーマーになる前も30年以上、自分の猫はみんな自分でシャンプーしてきた。犬のグルーミングとは別の次元で、猫のグルーミングニーズは常に認識していた。シャンプーされて喜ぶ猫はいなかったが、一度目より二度目、三度目と、だんだん慣れていった。マクガイバー(このコラムのロゴのモデル猫)など、私と一緒に風呂に浸かったものだ。そして皆一様に、乾くと毛がフカフカになり、「気分いい!」と感じているのが見ていてわかった。毛の手触り(モフモフ度)も段違い。
そして成り行きとはいえ、そのチョーニッチな分野で専門教育を受け、今やプロの猫グルーマーになってしまった…。正直自分でもビビっている。実はかなり危険で難しい職業だから。飼い主が手に負えない猫の爪を切ったり、シャンプーしたりするわけで…。でも、私のサービスを必要としてくれる猫の飼い主さんが少なからずおり、喜んでもらっているのも事実。引っかかれて腕は傷だらけだが、とてもやりがいがある。
2019年は私の猫グルーマー元年だった。2020年はぜひ飛躍の年にしたいもの。

シャンプードライ
ニーズとメリット


目指す「マスター猫グルーマー」の資格獲得への修行過程で、2019年秋はペンシルベニア州で開かれたグルームエキスポやペットエキスポに参加した。11月のペットエキスポ・ピッツバーグでは、私のグルーミングの師匠ジャスティンや、他のマスターグルーマーたちと共に猫グルーミングのブースを出し、啓蒙活動をしてきた。
そのペットエキスポで、我々のブースには驚くほどたくさんの人が立ち寄ってくれた。愛猫の毛の手入れで悩む飼い主からいろいろな質問をぶつけられ、それに答えるのも勉強だった。多くは「毛が油でギラギラしている」「ブラッシングを嫌がる」「老齢で、毛がダマになるようになった」といった悩みを持っていた。猫専門のグルーミングサービスがあることを知り、驚いて目を丸くする人もいた。
一方で、「猫の皮膚と毛には自然の油分がある。それをシャンプーするなんてとんでもない」と我々に挑んでくる怖〜いおばさんもいた。実際このおばさんが言うように、猫はたくさんの皮脂を分泌するオイリーな生き物だ。だからこそ、その「自然の油分」が過ぎれば毛ダマの原因になる。師匠は冷静にこう返した。「問題を起こすのはexcessive oils=過剰/余分な油分=です。それを洗い流し、皮膚と毛を健康に保つのがグルーミングの目的です」。
猫が自分で舐めて毛繕いしているのは認める。ただ、結果として毛に唾をつけながら、あの舌のざらざら構造によって、抜け毛を全部飲み込んでしまうのも事実。うちのルフィーのようにそれを胃に溜め込み、定期的に毛玉を吐く猫も少なくない。長毛種などはいくら舐めて毛繕いしても追っ付かない。お尻の周りに乾いた便やリッターがこびりついた猫を、実習で何度もグルームした。そういう状態を解決するには、人間が介入するしか方法はないのだ。
猫の種類や年齢、毛の質により、必要なグルーミング頻度は異なる。短毛で若く、もともと毛並みのいい、グルーミングなど不要に見える猫でも、シャンプー・ドライすると毛がフカフカになり、飼い主は皆一様に驚く。


ルフィーのベリーシェイブ(左)これでヘアボールはほぼ解消!

無毛のスフィンクス
隔週シャンプー必須


ペットエキスポに一緒に参加した、ピッツバーグのマスター猫グルーマーのマディソンが、愛猫オフィウスをブースに連れてきていた。毛のない種類のスフィンクスだ。ご存じの読者もいるかもしれないが、毛がないからこそスフィンクスは、最低でも2週間に1回はシャンプーして皮脂を洗い流してやらないと、皮膚表面がベタベタになる。毛がある猫なら、皮脂は毛の表面に吸収されるが、毛のないスフィンクスは皮脂の行き場がないからだ。毛のある猫と違って、シャンプー後はタオルドライで済むのは何より。
猫のグルーミングは奥が深い。

雑学@ 毛のないスフィンクスは、1966年カナダのオンタリオで、突然変異で生まれた猫種。

雑学A 猫の毛にはGuard、Awn、Downの3タイプあり、純血・雑種ともほとんどの猫種はGuard+AwnまたはDownのダブルコート。Guardだけのシングルコートは、アンゴラ、バリニーズなどエキゾチックな長毛種に限定される。3つ全部を持つトリプルコートは極めて珍しく、長毛種のサイベリアン(フォレストキャット)と、カーリーヘアのセルカークレックスの2種類のみ。


Kana S. Cat Grooming
kanacatgrooming@gmail.com
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