2018年11月02日号 Vol.337

「第1回ニッポン・アメリカ・ディスカバリー映画祭」(NADf2)

「知られざる日本」をアメリカで紹介することをコンセプトにした映画祭「第1回ニッポン・アメリカ・ディスカバリー映画祭(NADf2)」(▽共催:マークリエーション、よみタイム、RH+ ▽スポンサー:ヌーンタン・エンターテインメント)が、11月16日(金)と17日(土)の2日間に渡り、イーストビレッジの「アンソロジー・フィルム・アーカイブズ」で開催される。ドキュメンタリーや実在の人物、出来事をテーマにした5作品を選出。ハリウッド映画のような華々しさは無いものの、日本人の精神性、姿勢、文化はもとより、カルト的な側面など「ステレオタイプではない日本・日本人」を紹介。ショービジネスの中心ニューヨークで、アメリカ人だけでなく、日本人にとっても「新発見」となる作品群だ。
★クロージングナイト
★ニューヨークプレミア
★金森正晃監督 来場

デンサン
11月17日(金)8:30pm

鋳物の町、富山県高岡が舞台
未来へと繫ぐ「伝統」とは

デンサン

デンサン

デンサン
■監督:金森正晃
■出演:西野亮廣(キングコング)/山本真由美/みひろ ほか
■ドラマ/106分/2018年/日本


伝統産業を略したタイトル「デンサン」。高岡鋳物発祥の地である富山県高岡市を舞台に、ものづくりの街の伝統と革新をテーマにした長編映画。「デンサン」が他の映画と違うのは、町の実行委員会だけで制作された点だ。金森正晃監督が立案し、地元・高岡の有志により委員会メンバーが結成。「地域の力でやり遂げることが、その潜在能力を示すことにもなると確信していた」と金森監督はコメントする。12代目鋳物師の主人公が、伝統を受け継ぎながらも仲間と共に挑むものづくり。伝統産業の発信だけでなく「地域で根付く可能性を感じ取ってほしい」との願いが込められた作品。

▼あらすじ
富山県高岡市。12代続く鋳物工場で働く久遠茂(33)(西野亮廣・キングコング)は、親子喧嘩ばかり。父・幸三郎は伝統を重んじており、茂は若い感性を取り入れたプロダクトデザインを作り、世界に高岡の技術を発信していきたいと考えていた。しかし、父はその取り組みに力を貸さず、茂の憤りは日に日に増していく。一方、デザイン事務所に勤めている片折恵水(30)(山本真由美)は、東京都出身のデザイナー。伝統産業が盛んな土地でクリエイティブな仕事をしたいと考えていたが、現実は異なっていた。縁もゆかりもない土地に来て、恵水もまた憤りを感じていた。ある日、茂は先輩の廣田が経営する鉄板焼き店で、恵水と出会う。この出会いがきっかけとなり、茂と恵水に新しい「モノづくり」がスタート、二人の距離は近づいていく。

「私にとって映画は哲学」
金森正晃 監督

デンサン
金森監督(撮影現場で)

デンサン
(左から)主演の西野氏、技術指導をする職人さん、金森監督


「私の祖先は鋳物の職人さんです。ただ最近では担い手も減り、存亡の危機にあります。だからこそ、モノづくりのベースにある『伝統産業』を盛り上げたいと考えていました」と話すのは、金森正晃(かなもり・まさあき)監督。自身が手掛けた「デンサン」の舞台、富山県高岡市の出身だ。富山県立氷見高等学校を卒業して上京。東京情報大学経営情報学部を卒業するが、「都会は自分に向いていない」と感じ、地元の富山テレビに入社した。「私の住む高岡市は、観光資源に恵まれています。お魚が美味しい、海も近い、手つかずの自然が豊かな山もある。加えて、伝統的なモノづくりの都市として栄えてきました。多くの魅力があるにも関わらず、それが伝えられていないのが現状です」。地元をメジャーな都市にしたい、地域にある素材を磨き演出していきたいと考えた金森監督。2013年に独立し「大仏兄弟株式会社」を立ち上げた。「『大仏兄弟』の意味ですか? 『大仏』は高岡のシンボル。『兄弟』とは『ブラザー=仲間』を意味しています。『ブラザー』と呼び合える仲間たちでイノベーションを起こしたいと思い、ネーミングしました。撮影が得意なブラザー、編集が得意なブラザー、空撮が得意なブラザー、音楽が専門のブラザー、私は…何でしょうね(笑)」
都会に比べて資金も人口も少ない田舎だからこそ、気心の知れた「ブラザー」たちとの結束力を活かす。「大仏兄弟」は、技術革新を起こし、時代を切り拓こうとする金森監督の心意気から立ち上がった。

映画タイトルの「デンサン」は伝統産業の略で、金森監督初の長編映画だ。「『デンサン』が他の映画と違うのは、町の実行委員会だけで制作された点です。立案は私ですが、委員会メンバーは地元・高岡の有志で結成され、中には代議士や市長、市議会議員、大学の教授、伝統産業の職人、若手の経営者さんなどもいらっしゃいます。地域の力でやり遂げることが、その潜在能力を示すことにもなると確信していました」。映画の中身だけではなく、台本、チケット制作、小道具など、多くの人々が制作に携わった。「登場するキャストの半数は、富山県市民の皆さん。映画に参加することで、現役で活躍する日本の俳優さんたちに接してもらいたかった。普段はできない経験をすることで、自信を持って貰えればと思いました」。店の店長、バスガイド、観光客、通行人、高校生など、正に地元が一丸となって創り上げている。「僕にとって高岡は生まれた町。先輩たちが築き上げた伝統ある町に敬意を持ち、さらに発展させたい。高岡には400年のモノづくりという歴史があり、それだけ長い年月、挑戦し続けたことが現在に繋がっている。私たちはそれを理解し、地域という特性を生かしながらチャレンジ精神を持って次の100年に繋げなくてはならない。ただ、次々と便利で新しい商品が誕生する現代、伝統産業で作られるモノは淘汰されつつあるのも事実です。だからこそ、次世代を担う子ども達にこの映画を観て、これからの時代にフィットした『チャレンジする伝統』を感じてもらいたい」。「デンサン」は、高岡市の教育委員会を通し、多くの小中学校で試写会が行われている。

「デンサン」には、高岡の名所が多数登場。そのいくつかを金森監督から紹介してもらおう。
「『高岡大仏』は、日本では珍しい地域の人たちの力だけで建立した大仏。一般的には、これだけ大きな大仏を作る際、行政機関がお金をかけるのですが、高岡大仏は民間の力だけで作られました。屋外にあるので、街を歩いているとニョキッ!と顔が出てきます、びっくりすると思いますよ(笑)。銅合金鋳物ブランド『能作』は、劇中に出てくる鋳物を見学し、さらに体験ができる施設もあり、気軽に錫製のビアカップが作れます。『雨晴海岸』は、世界で最も美しい湾クラブに登録されるほど景観が素晴らしい。日本海の背後に広がる立山連峰は、最高のビュー・スポットです」
「デンサン」の成功を受け、他の地域からも制作依頼があるという。「私はお金をかけた興行を目的とした映画より、地域の課題を見つめる機会となる映画を撮りたい。その本質を理解し、内側に問題提起ができる映画を作りたいです。それがきっかけで、地域が盛り上がってくれたら嬉しいですね」
「デンサン」のパンフレットには、多数の写真が掲載されている。撮影風景のみならず、地元の企業、銀行、市役所、観光地、工場、学校など、監督や出演者と一緒に、地元の人々がカメラに収まっている。大人も子どもも同様に「Vサイン」を掲げ、心から「デンサン」を応援していることが伝わってくる。
「デンサンには、『伝統は死んだ。』というサブタイトルが付いているのですが、これはニーチェのオマージュ。『伝統』という言葉が全てを古臭く見せる、『伝統』なんていう言葉から解放されるべきだと思った。もっと自由で、もっと楽しくモノづくりをしてほしい。私にとって映画は哲学(笑)。映画の中に、哲学的なものがチラリと見える仕掛けを考えるのが楽しいですね」
映画完成の打ち上げ時、感極まって泣いてしまったという金森監督。「デンサンは、素晴らしいチームで制作できました。『ブラザー』たちの想いも覆い被さってきて、感情が崩壊してしまいました(笑)」

映画では、現役の職人たちが「デンサン」のタイトル板を実際に制作する姿も収められている。「高岡鋳物の伝統産業は、原型、鋳込み、研磨、着色など、複雑に技術が分かれているため、関わる人によって出来上がりが全く変わります。これもモノづくりの楽しさ。だから伝統産業は尊いのです。失われた技術もありますが、私たちは自分たちのアイデンティティを守るためにも、モノづくりの魂をなくしてはいけないのです」

「伝統」を守るだけでなく、「伝統」を未来へと繫ぐ。それが金森監督が描いた新しい伝統工芸の姿、「デンサン」だ。映画を見終わった時、職人たちの心意気、その「かっこよさ」に感銘を受けるだろう。

会場:Anthology Film Archives
32 2nd Avenue (@2nd Street)
anthologyfilmarchives.org

料金:$10(1作品)
割引:NAD2 $18(16日・2作品)、NAD3 $25(17日・3作品)、NAD5 $40(5作品)
※前売りチケットはNADf2ウェブサイトから
問合せ:917-400-9362 (Cell/Text)
詳細(日本語)
www.nadf2.com/japanese


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