何気なく手にした一冊の本。思いがけないストーリー展開に驚きと喜びを覚え、「読む」ことが楽しくなる。そういう意味でジーン・ローは「聴く」喜びを与えてくれる女性シンガーソングライターだ。
ジーンはニュージャージー州パターソンに生まれ、同州ナトリーで育った。両親がギターを弾くこともあり、子供の頃から音楽は生活の一部だった。
「学校から帰ってくると(ジョン)コルトレーンがかかっていたり、お父さんがフレディ・グリーン(カウント・ベイシー楽団のギタリスト)っぽくギターを弾いていたり、とにかく恵まれた環境でした。他にも、フォーク音楽、ボサノヴァ、アフロ・ポップを聞いて育ちました」と子供の頃を振り返る。
ニューヨークのニュースクールで音楽を学んだジーンは、「生活するのは大変だが、様々な分野のクリエイティブなアーティストが集り刺激溢れる」この街を拠点に活動を続け、2009年にデビュー・アルバム「Lead Me Home」をリリースした。アルバムには、英語以外にもスペイン語とポルトガル語の歌詞の曲が収録されており、多国語シンガーとしての才能を披露している。
その後、ジーンは公立学校の音楽教師という教える立場からも音楽に向かい合う。ライブ活動では、アフロ・ペルーヴィアン、ブラジリアン、フォーク音楽などを歌い、ソングライターとしても磨きをかけ4年ぶりにセカンドアルバム「ジーン・ロー&ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド・ショー」をリリースした。
タイトルは彼女の音楽プロジェクト名でもあるが、この「世界の終わり」という言葉は悲観的ではなく、ポジティブな意味合いでつけたと言う。
「イメージとしては、タイタニック号が沈没した時、演奏を続けたというバンドです。生死の狭間で乗客たちが逃げ惑う中、最後まで自分たちの仕事を全うしたミュージシャンたち。今は多くの人にとって困難な時代ですが、私たちは、どんな状況下でも音楽の美しさ、素晴らしさを伝えて行きたいと思っています」と力強く語る。
今作には、彼女の巧みなソングライティングが活かされた11曲が収録されている。歌詞は前作同様、3カ国語が使われているが、7曲目の「Water」では、「水」という言葉をロシア、ヒンズー、アラブ、イタリア、スワヒリ、トルコ、アフリカ、中国語などで並べる試みも行っている。
このCDパッケージはデザインがユニークで、1枚の変形の紙を折畳み、ポケットができる仕組みになっていて、その中にディスクとサイズの異なるカードが12枚入っている。11曲の歌詞とクレジット、その裏にはイラストやジニーのエッセイ、写真などが印刷されていて実に興味深い。デジタルダウンロードに慣れ切ってしまったリスナーもそそられるだろう。
「最近はCDを購入する人も少なくなったから、実際に手にしたくなるような何か特別な仕様にしたかったの」と答えるジーンだが、彼女の思いは歌詞カードを見ながら聞くと、ひしひしと伝わってくる。
ジーンのスタイルはフォーク音楽をベースにワールドミュージックのエレメントをふんだんに散りばめたものだが、アコースティックな音作りから、曲調は違うが初期のスザンヌ・ヴェガが思い浮かぶ。個々の言葉が持つ独自のリズムとサウンドを絶妙に組み合わせた歌詞。英語のみならず多国語を取り入れることで、言葉の可能性を無限にしている。
「この新しいプロジェクトを皆さんと共有できることは歓びです。日本人は、ニューヨークにも有能なミュージシャンが多く、リスナーとしても音楽に造詣が深いので、アーティストとして刺激を受けます」
そのジーンが1月中、3回にわたって、マンハッタンのロックウッド・ミュージック・ホールでライブを行う。今回は「ソロ・レジデンシー」ということで、バンドではなく、ソロ演奏にゲストミュージシャンを迎える形になるが、もちろん新作の曲も披露される。
今年、最も活躍が期待されるアーティスト、ジーン・ロー。彼女のショーで、音楽の素晴らしさに是非触れて欲しい。
(河野洋)
Jean Rohe:Solo residency
■1月14日(火)・21日(火)・28日(火)8:00pm
■会場:Rockwood Music Hall
196 Allen St.
■ミュージックチャージ無し(入場21歳以上)
■www.rockwoodmusichall.com |