さなぎが美しい羽を伸ばし、蝶になるその瞬間。それは楽譜に平面的に刻まれた作曲家の思想や感情が、目には見えない立体感的な音となり、リスナーの情感とシンクロナイズする感動の瞬間に類似する。演奏家はその役割を担い、故に両者のパイプとなる為、変化を恐れてはいけない。
そんな意味で、ライチャス・ガールズ(RighteousGIRLS、以下RG)は柔軟で型にはまることを拒む、新世代の音楽デュオだ。
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ニューヨーク州バッファロー生まれのジーナ・アイゾ(フルート)と大阪生まれの土肥絵里香(ピアノ)。文化も言語も異なる二人が出逢ったのはマンハッタン・スクール・ミュージックだった。音楽を志す二人が国境を越えて、音楽のメッカ、ニューヨークで出逢ったのは、ごく自然のことだったかもしれない。
「クラシック・ピアニストとレッテルを貼られるのが嫌だった」という絵里香と、「ジャズを始め、様々なジャンルの音楽を聞きまくった」というアイゾの二人。共通のテーマは、多種文化融合ジャンル。それは、彼女たちのライブではもちろんのこと、来年2月に録音予定のアルバム「EDGE」で披露される。
アルバムに収録予定の10曲は、有名無名を問わず、才能溢れるRGが惚れ込んだ作曲家たちが名を連ねる。
バンドネオン奏者としても参加予定のアルゼンチン・タンゴのJPジョフレ、エレクトロニック音楽のパスカル・ル・ブーフ、ジャズからはヴィジェイ・アイヤー、アンブローズ・アキンムシーレなど、RGならではの層の厚い選曲となる。
RGのレパートリーの一曲「ライチャス・ベイブ(Righteous Babe)」は、デユオが結成される前にコンテンポラリー音楽のランディ・ウルフが作曲したが、アグレッシブでワイルドな演奏から優しく叙情的に奏でるエンディングまで、バランス良く二人の個性が表現されている。そしてこの曲からジーナと絵里香は、女性二人のデュオということで「Babe」を「GIRLS」に差し替え「Righteous GIRLS」と命名した。
このデュオ名だが「Righteous」に横線が入っているのが印象に残る。
「これは絵里香と私の内輪ネタで、Righteousって、通常は正当とか肯定的な良い意味に使われるけど、私たちは『Righteous』という箱の中には収まりきらないわよ、ってことなの、だから打ち消しの横線を入れたのよ」とジーナは笑って答える。
「Not so righteous、ってことなのだけど、実際の私たちに関しては、そうね、みなさんのご想像にお任せするわ」と、絵里香は続けた。
RGはビジュアル的にも、自由奔放に自己表現する。その一例が公式フォトでも見られるボディペイントだ。これはジーナの友人とのコラボレーションだが、二人の顔から肩にかけて、黒とライトブルーの鮮やかな色が、まるで蝶の羽模様のように広がる。RGのコンセプトは恐れる事なく自分たちの羽を広げることなのかもしれない。
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そんなライチャス・ガールズが11月16日(土)、ミッドタウンのサムシン・ジャズクラブでライブを行う。
RGのライブは緊張の糸が張り巡らされたかのように繊細かつ、スリリングで背筋が伸びる。
「同じ音楽を演奏するとしても常に新しいキャラクターで取組む」ジーナと、「様々なジャンルの音楽を演奏することで、外観が異なるかもしれないけど、私たちが取組んでいることはいつも同じ」という絵里香。
RGは、これまでも、そして、これからも我が道を行く。自分たちの羽を広げ…。
(河野洋)
RighteousGIRLS
■11月16日(土)7:00pm
■会場:Somethin' Jazz Club
212 E. 52nd St., 3rd Fl.(2nd & 3rd Aves.)
Tel: 212-371-7657
■カバー:$12
■somethinjazz.com/ny
※レコーディング資金集めの為にキックスターターを11月中旬にスタート予定 |