世界を股にかけるニューヨーカー、フレディ・ブライアントは、一般的にはジャズ・ギタリストとして知られているが、彼のギターを聞けば、ジャズだけに留まらず、クラシック、ブルース、アフリカ音楽、南米から欧州まで、ありとあらゆるワールドミュージックの影響を受けていることがわかる。
最新アルバム「ライブ・グルーブス…エピック・テールズ」(2012年発表)のジャケットには、一本の道路と飛行機が描かれていて、そこに搭乗券を左手に3本のギターを抱えた笑顔のフレディがイメージされている。
この図こそ彼の音楽人生を如実に表している。
今回のインタビュー会場は、グリニッチ・ビレッジのジャズ・バー「Bar Next Door」。ライブ前のフレディは、そのジャケットの通り、テレキャスター、ナイロン弦ギター、そして12弦アコースティックギターの3本の調整に余念がなかった。
「元々クラシックギターを始めたのだけど、チャールズ・ミンガスやラサーン・ローランド・カークに出逢ってジャズにのめり込んだね。でも今でもクラシック音楽を演奏するし、決してジャズだけってわけじゃないんだよ」と語るフレディには、音楽ジャンルの国境は全くないようだ。
とは言え、ジャズとクラシックは根本的に違う。それ以外の幅広いジャンルを演奏する彼にとって、様々なスタイルで常に高い技術を維持することは容易でないはずだ。
「旅行も多いし、充分な練習時間が確保できないこともある。だから、次に取組むプロジェクトの内容によって練習メニューを変えるんだ。今年の夏はエリアーヌ・エリアスと欧州ツアーがあるから、ブラジリアンジャズに専念しなくちゃいけないね」
つまり一度に手を広げず、プロジェクトを一つずつ丁寧に完遂していくことで、次の目標が明確になり、ギタリストとしても成長していけるのだろう。それでも「死ぬまでに全てのスタイルを学べたらいいね」と、笑いながらも音楽に対するどん欲さも見せる。
モットーは「来るもの拒まず」で、仕事のオファーが来たら答えは基本的に「YES」だ。
彼がここまで音楽に対して偏らない理由は、黒人シンガーの母と白人ピアニストの父を両親に持った境遇にある。人種や国境というような観念の必要がない、音楽に満ち溢れた環境で育った彼だからこそ、何事に対しても柔軟になれるのだろう。
最新アルバムは、ギターを奏でながら詩を朗読する「Alone」や思わずハミングしたくなるブラジル色一杯の「La, La, Ohh!」など、ジャズを普段聞かない人にも楽しめる内容になっている。
昨年の夏にはNYを拠点に活動するジャズシンガーERIKAとジャパンツアーを行ったフレディ。次回は自らのグループで日本を訪れたいとのことで、日本でも彼のライブ演奏が体験できる日がやってきそうだ。
また、自らが講師を務める「The New York Comes to Groningen」(オランダにあるプリンス・クラウス音楽大学)に、年4回訪れ若手養成にも余念がない。日本人の若手音楽家たちにも是非この大学を利用して欲しいと言う。
3月20日(水)、ヨスヴァニー・テリー(サックス)、パトリース・ブランチャード(べース)、ウィラード・ダイソン(ドラム)という錚々たるジャズメンを率いて、ダウンタウンのジャズスポット、Zinc Barでライブを行う。
「誰もが音楽を楽しむべきだと思う」そんな彼の言葉を信じて、ジャズを聞いたこともない人も、ジャズファンも、マンハッタンの一夜、フレディ・ブライアントのジャズ・ギターに導かれて、ワイン片手に世界旅行を楽しんでみてはどうだろう。
(河野洋)
Freddie Bryant and Kaleidoscope
■3月20日(水)
9pm、10:30pm、 Midnignt
■会場:Zinc Bar
82 W. 3rd St.
■Tel: 212-477-9462
■$15
■zincbar.com |