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【MTA地下鉄アートの旅】WTC地下に響く「コーラス」:人権と自由を刻む白のモザイク 

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2025年6月27日号|6

【MTA地下鉄アートの旅】アン・ハミルトン
WTC地下に響く「コーラス」
人権と自由を刻む白のモザイク
Ann Hamilton: CHORUS

ワールド・トレード・センター(WTC)敷地内の地下に位置する新しい「WTCコートランド駅」で、建設の一環として制作された「コーラス(CHORUS)」は、テキストをベースとした巨大な大理石のモザイク・アートワークだ。総面積は4,350平方フィートにおよび、アメリカ独立宣言と、1948年に採択された国連の「世界人権宣言」から抜粋された文章が、壁一面に組み込まれている。

"CHORUS" (2018) © Ann Hamilton
NYCT WTC Cortlandt Station
“CHORUS” (2018) © Ann Hamilton, NYCT WTC Cortlandt Station (Photo: Thibault Jeanson)

普遍的な言葉の力と、時代を超えた芸術性を伝えるこの作品は、甚大な被害が集中し緊張感に満ちた「グラウンド・ゼロ」に、静かな落ち着きをもたらしている。単色の大理石に刻まれた白地に白の凹凸文字は、視覚的な美しさだけでなく、手で触れて感じることのできる触覚的なアートとしても印象的だ。乗客が歩を進めながら文字を読み、触れることで、「人権」と「自由」にまつわる理念が個人の体験として結びつく。日常的な「駅」という公共空間に、詩的かつ思索的な対話を生み出すアートワークとなっている。

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同作は、アーティストのアン・ハミルトンと、タイポグラフィーデザイナーのハンス・コーニュ、そしてドイツ・ミュンヘンの熟練職人たちとの緻密なコラボレーションによって実現。ハミルトンは、大規模なミクストメディア・インスタレーションで国際的な評価を受けるアーティストで、建築空間やその場の記憶、社会的文脈に呼応する作風で知られている。1991年のサンパウロ・ビエンナーレ、1999年のヴェネツィア・ビエンナーレにはアメリカ代表として参加し、2015年にはアメリカ政府より芸術家に贈られる最高位の栄誉「アメリカ国家芸術賞(National Medal of Arts)」を受賞している。

多様な言葉と人びとの声が響き合い、ひとつの調和を生み出す「コーラス」は、歴史と市民の声を静かに共鳴させている。

■地下鉄:1ライン
■駅:WTC Cortlandt (Manhattan)

"CHORUS" (2018) © Ann Hamilton NYCT WTC Cortlandt Station

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