2018年8月10日号 Vol.331

外国人による土地買い占め問題を
先行して撮っておきたかった

「ひかりのたび」
監督:澤田サンダー
主演:高川裕也
プロデューサー:木瀧和幸

ある地方都市を舞台に、外国資本の手先として土地を買いあさる冷徹な不動産ブローカーの父と、町に愛着を持ち始めた娘の葛藤を描き出したドラマ「ひかりのたび」。それは映像の中だけの出来事ではなく、同じようなことが身近なところで起こっている事実である。

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(左から)高川氏、澤田氏、木瀧氏


本作製作のきっかけは3年前。「渋谷の駅前にある商業施設「ヒカリエ」で、 1周年記念の映画祭「ヒカリエイガ」に高川裕也さんの作品を見に行ったんです。そこで、澤田サンダー監督の映画を見て、痛く感銘を受けました。映画を見た後すぐ、監督に会いに行ったんですよ」と、プロデューサーの木瀧和幸。「サンダー監督の他とは違う着眼点に感銘を受けました。そこに才能を見た気がしたんです。地味だけれど社会性があり、『そこに着眼点を持ってくるのか!』という点が素晴らしいと思っています」と続ける。この時、「一緒に仕事をしませんか」とオファーし、プロジェクトがスタートした。

もともと不動産業に従事していたというサンダー監督。「2000年代前半、アメリカのリーマン・ショックに該当するようなことが日本でも起きていたのですが、その時期に「不良債権処理」を担当していました。仕事をしていた際、高川さんが演じた主人公のモデルになる人がいた。役名と同じ『植田さん』という人ですが、その時、漠然と『これを物語にしたら面白いな』と思ったんです」
 
「ひかりのたび」では、土地に愛着を持たない父親と土地に愛着を持ち始めた娘が描かれる。年配者は生まれ育った土地に執着、あるいは年を重ねると故郷が恋しくなるが、逆に若者は「場所」に拘ららず、自由に行動する、という点を考えると、映画の設定は真逆のようにも思える。
「以前は『若い人は都会に憧れ街を出て、年寄りが残る』ということが起きていましたが、今はそうではありません。ましてや、海外などには出ようとしない。調べてみると世界的にも同様の傾向にあると知り、この設定にしました」と監督。  
 
物語の核となるのは土地の買い占め、不動産売買だ。「今、多くの日本人が、土地を買い占める中国人に対し、良くない印象を持っています。ですが、実はバブル時の日本人も、海外で同じことをしていた。一番有名なのは、ロックフェラーセンターの買収でしょう。ですが国外でのことなので、日本人は実感として残っていない。自分たちがやっていたことを忘れ、日本の土地を買い占める外国人に対し、『得体の知れぬ恐怖心』を覚える。映像にするならそこが狙いかな、と思いました。今、日本で起きているこの問題を、先行して撮っておきたかった」と監督。

冷徹な不動産ブローカーを演じた主演の高川裕也。善人なのか、悪人なのかの判断がつかない行動、強面の顔立ちから覗く娘への愛情。そんな、つかみ所のない人物像が、物語全体を「不透明なもの」として印象付ける。
「監督から『一般人から見て、礼儀正しいけど気持ち悪い人を演じてください』と指示を受けていました。何気ないお辞儀や、「ありがとうございました」の一言が、逆に『ゾゾっ』とする、そんなキャラクターを目指しました。その一方で、ちゃんと家族のことを考えている。喜怒哀楽が少なく、セリフも少ないのですが、『根は悪い奴ではない』という男を演じられるように気を付けましたね」と高川。なるほど、「狙い通り」のキャラクターだったという訳だ。また高川は、役者だけでなく、ナレーションも多く手がけている。「ナレーターというのは声だけ、しかも他人が書いた原稿を読むだけですが、言葉だけだからこそ、微妙な読み方の違いや『間』、どういう風にすれば効果的か・・・などを考えます。今回のセリフが少ない役柄は、それに通じるところがありました」。

人類は移住、移動、侵略を繰り返してきた歴史がある。その原点はどこにあるのか・・・。「ひかりのたび」は、我々にそのアイデンティティーを問いかける作品でもある。


ひかりのたび
Dream of Illumination


2007年に絵本『幼なじみのバッキー』を発表し、岡本太郎現代芸術賞入選の経歴を持つ、澤田サンダー監督の商業映画初監督作品。とある地方都市で不動産業を営む植田(高川裕也)は、冷酷非情な不動産ブローカーとして暗躍していた。高校3年生の娘・奈々(志田彩良)は、父が荒らしたその町に愛着をもち、これからも住み続けたいと思っていた。父と娘の葛藤、不動産売買というテーマを巡って、モノの価値、さらには人間の本質的な真価を冷静に見極める怖さと危うさが描かれている。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2017長編コンペティション部門に正式招待され、函館港イルミナシオン映画祭に出品。

2017年|91分
監督:澤田サンダー
出演:志田彩良 高川裕也 山田真歩 浜田晃
(Photo: Dream of Illumination © 2017 'Dream of Illumination' Production Committee)

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