2018年8月10日号 Vol.331

一番楽しかったのはキャスティング
全てが立体になっていくんです

「blank13」監督:齊藤工

コメディからシリアスな役まで、幅広い演技で知られる俳優・斎藤工(さいとう・たくみ)。彼はまた「齊藤工」という名で、写真家、映画監督、映画評論家としても活動、マルチなタレントぶりを発揮している。これまでも監督として短編映画は撮っていたが、放送作家・脚本家のはしもとこうじ氏自身の実話を基にした映画「blank13」で、長編監督デビューを果たした。

saito

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「はしもとさんはバラエティーの放送作家さんで、彼の書かれたコントを何度か演じたことがあるのですが、その際に、彼ご自身からこの話を伺ったんです。身の上話をシニカルにポップに話されていたのですが、特殊な環境の話ですから笑っていいのかわからない状況でした。ですが、舞台にしたら面白いなと思いました」。その時は映画化の構想は無かったが、「小林さん(本作の小林有衣子プロデューサー)ともその話を共有していて、『映像にしませんか?』とオファーを頂いたんです。映画にするという話になったのはそのずっと後です」。話が動き出したのは3、4年ぐらい前でした」ときっかけを語る。

ストーリーの根幹はバラバラになった家族の物語。13年前に多くの借金を残して父親が失踪。消息が判明した時は、ガンに侵され余命宣告を受け入院中。3ヶ月後、父はこの世を去ってしまう。展開の早い娯楽ムービーでもコメディでもない。セリフもそれほど多くなく、どちらかと言えば表情の描写が多い。 「説明が多いのは、好きではないんです。簡単に言ってしまうと、小説と漫画の違いとでも言うのでしょうか。『何でもっと簡単に理解できるようにしないんだ』と思う人もいると思いますが、それは僕自身が好みではなかったので」と打ち明ける。 「昔は作り手と、成熟したお客さんとの交流が『映画』だったんじゃないかと思うんです。今は『文句を言われない映像作り』という時代になったのではないか。アクや旨味が削ぎ落とされているのではないかと思います」と続ける。 また役者やスタッフには「普段できないことを、是非してください」と声をかけるという。彼ら自らが出す「プラスアルファ」が「アク」であり「旨味」になる。そのこだわりこそが斎藤映画の特徴であり、魅力だ。

印象的だったのは、葬儀に参列した人たちが、家族の知らなかった父親のエピソードを語る場面。もともとは「そのシーンを映像化しよう」というのが始まりだったそうだ。キャラクターは、はしもとさんの記憶を基に設定した。 「当初、出演者役者は全員、芸人さんにお願いしようかとも思っていました。でもそれを『受け止める役』が必要だなと思い佐藤二朗さんにお願いしました。うまくまとめていただきました」と語る。

「一番楽しかったのはキャスティングですね。役が埋まっていくだけではなく、ストーリーが立体になっていく、建物になっていくんです」。それぞれの役者が、それぞれの個性をぶつけ合い、映像に厚みが生まれていく。齋藤はあまり指示を出さず、ほとんどがファーストテイクを使用したそうで、まさにキャスティングの面白さだ。

現在、俳優とフィルムメーカー、作り手と演じる側、いわば両極にいる。「『あの人が作った、撮ったものだから』と、いろいろ言われると思うんです。でも敢えて『どうせあいつが撮ったものなんて』という、被害妄想の目線を感じるようにしています。ネガティブな考え方を逆にエネルギーに変えていきたい。そこが自分の個性・特色になればいいなと思っています」

「blank13」は特殊な環境を独自のアングルから描いた作品。キャスティングの妙、アクや旨味など見所満載だ。
blank13

実話を基にした、俳優・斎藤工が「齊藤工」名義で臨んだ初長編監督作品。13年前に失踪した父(リリー・フランキー)が余命三か月で見つかった。借金を残していった父に会おうともしない母(神野三鈴)と兄(斎藤工)。しかし、優しかった父の思い出が忘れられないコウジ(高橋一生)だけは入院先を訪れる。家族との溝が埋まらないまま、父はしばらくしてこの世を去ってしまう。葬儀の参列者から聞いた父のエピソードにより今までコウジの知らなかった父の姿が浮かび上がってくる。父との空白の13年間は埋まっていくのか―。日本国内外の映画祭で上映され、上海国際映画祭ではアジア新人賞部門で最優秀監督賞、ウラジオストク国際映画祭では最優秀男優賞をトリプル受賞(高橋一生、斎藤工、リリー・フランキー )するなど賞を獲得する。

2018年|70分
監督:齊藤工
出演:高橋一生、松岡茉優、斎藤工、リリー・フランキー
(Photo: blank 13 © 2017 'Blank 13' Production Committee)

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