2019年7月26日号 Vol.354

役に立たない人たちも
幸せになっていいんじゃない?

【天然☆生活】
監督:永山正史
出演:川瀬陽太、三枝奈都紀

あらすじ:のどかな田舎で、叔父の介護をしながら本家に居候していた50歳独身のタカシ(川瀬陽太)は、叔父の死後に旧友たちと再会、楽しく生活していた。ところがある日、田舎でのナチュラルライフに憧れる一家が東京から引っ越してくる。古民家カフェ開業を夢見る彼らは、タカシの住む美しい茅葺の家に目を付け、タカシたちの平穏な日常が、徐々に崩れ始める。「トータスの旅」で2017年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭グランプリに輝いた永山正史監督による人間ドラマ。
『天然☆生活』 2018年・96分
監督:永山正史
出演:川瀬陽太、津田寛治、鶴忠博、谷川昭一朗、三枝奈都紀


Being Natural © TADASHI NAGAYAMA


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(左から)川瀬陽太 、永山正史監督、三枝奈都紀 (Photo by YOMITIME)


永山監督僕はいつも妻とふたりで脚本を書いているのですが、今回「どういう話にしようか」と相談していた時、妻の親戚で田舎に住んでいる面白い人たちがいることで、彼らから発想のヒントを得ました。主人公のモデルになったおっちゃんは、親戚の人なんです。周囲からは「結婚もせず、フラフラしている」と評価されているのですが、僕からすれば、彼はとても幸せな感じがしたのです。

ーー映画に出てくるカメが印象的なのですが・・・

永山監督今もカメを飼っているのですが、僕が子どもの頃にも家でカメを飼っていました。僕のお兄ちゃんが親にねだって買ってもらったんですけど、すぐに飽きちゃって、ほったらかしになり、誰にも見向きされずにベランダに放置されていました。オヤジだけが水槽の掃除や面倒をみるようになり、僕にしてみればそのカメは「いるのか、いないのか、よく分からない存在」になっていたんです。それがある日、オヤジが「水槽を洗っている間に逃げちゃった」と、突然いなくなった。子ども時代の記憶で、そのカメの存在がずっとひっかかっていました。「いてもいなくてもいい存在」というものが、僕が描きたい人物やテーマにあっている・・・カメはその象徴的なイメージなんです。

ーー劇中で使われる「見上げてごらん夜の星を」「バラが咲いた」「星影のワルツ」など、永山監督が生まれる前の歌ばかりですが、選んだ理由は何でしょう。

永山監督少し古い映画が好きで、構成も古いテイストにしているんですけど、それにあうのは昭和歌謡かなと。今回のテーマにあう3曲を見つけ、これにしようと決めました。

ーー梅干しの種を飛ばすシーンには、どんな意味が?

永山監督彼女はカップラーメンが好きで、本当はジャンクフードなどが食べたい子なんです。でも親は一切、その手のものを禁止、おやつに与えられているのは自家製の梅干しです。自家製梅干しを「与えられている私」が、自由にカップラーメンを食べているおっちゃんを見た時に、「私、なんでこんな梅干し食べてんのよ!」という気持ちになった。それを、セリフではなく「行動」で示すとしたら・・・というシーンになりました(笑)。

ーー川瀬さん、三枝さん、俳優を目指したきっかけは?

川瀬もともと映画が作りたくて、90年代から助監督をやっていたんです、でもある時、とある監督から「(演技を)やれ」と言われたところから、道を踏み外して(笑)・・・こんなことになりました。

三枝小学校の時、うちの学校にだけ学芸会がなく、学芸会にすごく憧れがありました。経験できないまま過ごしてたことで、ずっと「学芸会」みたいなことをやりたいなと。成長してから「劇団」があることを知り、「小さい頃に出来なかったことをやってみよう!」と始めたのがきっかけです。

ーー今回の出演に至った経緯は?

三枝私はオーディションです。映画に出たいと思っていたので、事務所のマネージャーに機会を作ってもらって「イキマス! 」と(笑)。

川瀬僕は前作「トータスの旅」に出ていたことで、永山くんがまた呼んでくれました。「次回作なんですけど 、実はコ〜コ〜こういう話で、川瀬さん、やってもらえませんかね」と言われたのが本作です。シナリオを読んでみて、「この役に何で俺が呼ばれた? あ、そういうイメージなんだろうな〜」と・・・非常にしょーもないおじさん、ニートのおじさん、という役を振ってくれたんですよね〜(笑)。

ーー監督は神奈川県出身ですが、田舎に対する憧れがあるのでしょうか。

永山監督1本目は田舎が舞台、2本目は田舎へ旅をする映画でしたが、田舎の描き方に興味があります。理想郷としての田舎、映画の中の一家が思い描くような田舎の幻想、田舎への憧れ。ですが実際、田舎に住んでみるとエグイところが一杯あります。近所付き合い、ゴミが出せない、閉鎖的な面など、田舎には良い面だけではないと考えています。「都会と田舎のすれちがい」という点に興味がある。例えば、都会から若者たちが休みを利用して浮かれて田舎にいくと、田舎の野蛮な倫理観の人たちに襲われ、ヒドイ目にあう・・・というような「田舎ホラー」的なストーリーは、アメリカ映画でよくみられます。実はそれが好きで、今回やりたかったのは、そんな「田舎ホラー」の逆バージョン。都会から田舎に行き、田舎の人たちが都会から来た人たちに、ヒドイ目にあわされる・・・という構造をやってみたかったんです。

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(左から)川瀬陽太 、永山正史監督、三枝奈都紀 (Photo by YOMITIME)

ーー外来種のカメを目撃し、さらに持参した料理を返された津田さんが豹変。それまでの、ほのぼのとした雰囲気が、一瞬にして変わりました。

川瀬演じている僕が感じたことですが、最初は古き良き日本の田舎というニュアンスで、田舎の楽しい暮らしを描いていました。でも、津田さんが来たところから、突然、照明などの色も含めて一変。それまでの牧歌的なシーンとの「ギャップ効果」を、監督は意図的に狙ったんだと思います。

ーー三枝さんの役で、外面の良さと家族といる時の不思議なギャップが良かったのですが、監督から何か指示はありましたか?

三枝監督は本当に何も言わないんです。まず演じてみるのですが、監督にひとつ質問すると、ちゃんと200ぐらいの答えが返ってくるんです。監督の中では明確な意図があるのですが、それを私にわざわざ説明する訳ではなく、最初に好きにやらせて頂けたので、それがとても有り難かったです。(監督へ)ありがとうございました(笑)

永山監督何で今さら・・・(笑)

ーー監督は本当に何も指示しないのですか?

三枝監督が楽しくなってきて、やってる最中に「もっと、あーしようこうしよう」ということはありました。津田さんと夜のシーンで、撮りながら枕元で「じゃ次、こういうこと言ってみませんか」「名前を呼んでみましょう」と、監督が楽しんでいらっしゃったのは記憶にあります(笑)。でも比較的自由に、いろんなことをやらせて頂きました。私自身が、今回やらせて頂いた奥さん役に対し、すごく共感できる部分と全く共感できない部分があって、とても面白かったんです。「あ、こういう人いるよね〜」と彼女に対してイヤな思いを持っている自分もいますが、彼女は別に悪いことをしている訳ではない。全力で自分の好きなことを、ただただ一所懸命にやっているだけ。なのに、こちら側からするとイイ気持ちがしない。最近よく「そういう人」を見かけるなと思っていたところだったので、とてもいい役と出会わせていただいたな〜と思いました。(監督へ)ありがとうございました(笑)。

ーー川瀬さんは、ボンゴ(パーカッション)を叩いていらっしゃいましたが音楽を?


川瀬音楽は好きです。永山くんとは音楽の趣味も合ったので、話はしていました。映画でボンゴを使おうと決まったのがいつだったかは覚えていませんが、撮影時にはボンゴに決まっていて、早々とボンゴを渡され「練習してください」と(笑)。まあ、兄がパーカッションをやっていたこともあり、楽器には慣れ親しんでいましたから、楽しかったです。

ーー東京で、ボンゴを壊され、傘でつかれて。あの後は死んだという設定なんですか?

永山監督死んでいないです。

ーーということは、生霊?

永山監督いえ、光ったおじさんです。

ーーああぁぁぁ、そうですか(全員笑)

川瀬そうですよね(笑)。あそこで「何か」が起きたんです。台本を渡された時、「なんてことを考えるんだ?!」と思いましたし、永山くんにも「君もアホなことを考えるね」と(笑)。でも、だからこそ「ここはもうコレでいいんだ!」と思って演じたら、ああなりました。永山くんにも僕にも、論理的なことではなく、心情的な「ある種の理由」があったりするのですが・・・皆さんには戸惑って頂いて結構です(笑)。

ーー最後に、この映画を通して訴えたいことは何でしょう。

永山監督日本でつい最近、ニートに関する事件がありました。引きこもりの人が子供を沢山殺した事件が起きたのですが、そのすぐ後に、引きこもりの子を持つ父親が、自分の息子もヤバイんじゃないかと思い、殺害してしまったという事件。今の日本の政治や世の中の風潮は、人間の価値を「生産性」だけで計っているような気がしています。政治家が「一億総活躍社会」を推進していることもありますが、ニートや生産性がない人が疎外され、このまま行くと「優生思想」が蔓延してしまうのではないかと危惧しています。障害者が大勢殺される事件もありましたし、みんなの「本音の感情」の中で、陰惨な事件が起きているのではないかと。この映画では、そういうモノに対して、カウンターを入れたかった。役に立たないと思われる人たちも、幸せになっていいんじゃないの?ということが、伝えたいことです。

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Photo by Mike Nogami



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