よみタイム|2024年11月29日号・Vol.483デジタル版 & バックナンバーはこちら

藤本まり子(画家)+鉢迫翔太(キュレーター/プランナー)

「主役」と「裏方」互いが必要不可欠な存在に
藤本まり子(画家)+鉢迫翔太(キュレーター/プランナー)

「生き物を観察したり、絵を描くことは子どもの頃から好きでした」と話すのは、ブルックリンを拠点に活動する画家、藤本まり子。引っ込み思案で泣き虫だったという彼女は、描いた絵を家族から褒められるのがとても嬉しかったという。

そんな藤本の作品をキュレーションするのが、鉢迫翔太(はちさこ・しょうた)だ。藤本とは対照的で、「海外で過ごした影響もあり、幼少期から人見知りせず、誰にでも積極的に話しかける子どもだった」という。

ふたりが出会ったのは、ブルックリンのアートスタジオ「松山スタジオ」だ。東京出身の藤本と、神奈川県出身の鉢迫は共に1991年生まれ。同じ地域性、同じ時代を生きてきたことから「共感できる部分が多い」と、声を揃える。

藤本まり子+鉢迫翔太
画家・藤本まり子(左)と、キュレーター・鉢迫翔太

「物心ついてから、ずっと絵が好きでしたので、今の仕事には『繋がるべくして繋がった』という気持ちです」と藤本。コロナ禍で帰国する先輩から松山スタジオに誘われたことから、2021年に来米した。

人物にフォーカスを当てる藤本は、描く絵について、「こちら側(鑑賞者)」から、向こうの世界を覗く「窓」として捉える。

「私の絵は、『神』など人以外のモノを、『人の形』として描いている人物画。『生きる哲学』を『私日記』に変換して伝えています」

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一方、鉢迫は金融業界から、アート業界に移ったという異色の経歴を持つ。

「もともと現代アートに興味があり、偶然にもアーティストの知人が多くなったのですが、日本は経済大国でありながら、いまだ、アートマーケットは世界の1%未満。その理由の一つとして、アーティストを支えるエコシステムが未構築だということに気がつきました」

アートビジネスを学ぼうと考えた鉢迫は、ニューヨークのSotheby’s Institute of Art の修士課程へ進学。在学中に、松山スタジオの存在を知った。

「松山さんのビジョン(ニューヨークを拠点に世界のアート業界で活躍すること)と、私のビジョン(日本におけるアートマーケット拡大)が共鳴しました。異国の地で日本人として奮闘し、松山さんの経験から多くを学べると感じ、さらに私の金融業界での経験を活かせるかもしれないと」

2023年、松山スタジオに所属し、プロジェクトマネージャーとして活動。現在は主に、藤本の展示会やイベントのキュレーション、マネージメントなどを精力的に手がけている。

「Enduring Presence/なくなりはしない」
「Enduring Presence/なくなりはしない」

アーティストとキュレーターの関係

アート展の主役は「作品」であり「作家」だが、その「裏」で、彼らを支えるキュレーターの存在は不可欠だ。

鉢迫「アーティストが持つ『こだわり』を理解しサポートするのが自分の役目。逆に、『自分のこだわりを持たないこと』にこだわっているかもしれません。『こだわり』が良い方向に作用することもありますが、時にはそれが『エゴ』として衝突を生む。キュレーターとは、限られた時間の中で、いかにアーティストの表現を最大限に再現できるかをマネージすることだと考えています」

藤本「他者、特にプロフェッショナルな視点で鑑賞してもらうことで、自分では気が付けない部分がわかります。翔太さんからのアドバイスや視点は、私にとってより良い作品作りに繋がり、とても助かっています」

キュレーターとアーティストの関係について、「加速装置、ブースターとエネルギーのような関係=藤本」「漫画家と編集者、芸人と放送作家のような関係=鉢迫」と話すふたり。

鉢迫「私たちは異なる立場ですが、ニューヨークという異国の地で、芸術という共通の舞台で表現をするという覚悟を持っています。まり子さんが非言語的で感覚的な手法を用いて作品を制作する中で、私はその作品を言語化し、鑑賞者と作者を結びつける役割が果たせると考えています。二人の得意分野が高い親和性を持っていることから、彼女の作品をプロデュースすることで、より多くの人々にその魅力を伝えることができると思っています」

藤本「翔太さんのような存在は、私の作品を世界により良い形で、より伝わりやすく届ける為に必要不可欠です。彼のキュレーションで、私の日記的な作品が自分だけの視点だけではなく、さらに多くの『意味』を持ち、昇華されるのを目の当たりにしてきました。翔太さんの才量と、キュレーターという職業に感銘を受けています」

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最後に、「遊びでも仕事でも、今、一番やりたいこと」を尋ねた。

藤本「グランドキャニオンの様な、広大な自然を観に行って打ちのめされる経験をしたい」
鉢迫「強いて言うなら、グランドキャニオンの様な広大な自然の中で、キャンプをしてみたい」

示し合わせたような返答に思わず顔を見合わせて笑う。息もピッタリなふたりだった。

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