ロボットが恋に落ちたら…?韓国発のミュージカル
ブロードウェイ「メイビー・ハッピー・エンディング」
ホリデーシーズンの最中、ブロードウェイではオープンから1ヵ月未満の新作ミュージカル2本が閉幕した。その一方、韓国発の新作ミュージカルが着実に評判を高めている。「メイビー・ハッピー・エンディング」は、スイートな物語と豊かなクリエイティビティが詰まった、まるで玉手箱のような作品だ。(文・高橋友紀子)
近未来2064年のソウル。アンドロイドが家事や身の回りの世話をこなす社会で、旧型のヘルパーロボット、オリバー(ダレン・クリス)は、時代遅れになったロボット用の施設で暮らしていた。かつての所有者で「友達」でもあったジェームズがいつか迎えに来ると純粋に信じ、何年も一人で待ち続けている。
そんなオリバーの部屋に、隣人のクレア(ヘレン・J・シェン)が「充電させて!」と飛び込んでくる。クレアはオリバーよりも新型のヘルパーロボットで、現実的な視点を持ち、オリバーの夢にも「人は変わるものよ」と冷たく返す。対照的な二人だが、次第に交流を深めていく。
クレアには、蛍を見たいという夢があった。二人はジェームズと蛍を探す「旅」に出る。フェリーで済州島へ渡り、ジェームズが住んでいるはずの家を訪れるが…。
旅を通じて絆が深まり、二人は恋に落ちる。が、クレアのボディに異変が起き…。
「メイビー・ハッピー・エンディング」は、ロボットという設定を通じて、孤独と絆、愛と喪失、希望といった普遍的なテーマを描き、スイートながらズシンと感情に訴えかけてくる。ロボットの過去の記憶はすべてメモリーに保存され、二人の記憶が大画面に映し出される。オリバーとジェームズとの思い出は、共にジャズを聴くなど楽しいものばかりだが、クレアは、所有者の女性が恋人と愛を育んだ末に破局を迎える過程を目の当たりにしていた。
終幕近く、愛の喜びを知ったオリバーとクレアは「喪失の悲しみに耐えるぐらいなら」と究極の選択をする。多くの観客の涙を誘うこのシーンで歌われるのがタイトルソングだ。
オリバー役のダレン・クリス(「アメリカン・バッファロー」)は、ロボットらしい無機質さとクレアと出会って変わっていくオリバーの感情の機微を見事に表現。クレア役のヘレン・J・シェンは、本作がブロードウェイ・デビュー。自然体の演技と確かな歌唱力が光り、今後が楽しみな中国系の若手女優だ。
脚本・作詞は、ヒュー・パークとウィル・アロンソン(作曲も)。韓国でのコラボは本作が2作目で、2016年にソウルで初演され、数々の演劇賞を受賞した。日本でも2020年に上演された。ブロードウェイ公演も出演者の多くがアジア系の俳優で、オリジナルと多様性へのリスペクトを感じさせる。
アロンソンの楽曲は、軽やかでメロディアス。オリバーとクレアのデュエットの繊細な調べは耳に残り続ける。時折、架空のジャズシンガーが現れ、二人が愛を育んでいく様を歌う。この工夫が作品に寓話的な深みを加えていた。
特筆すべきは、近未来を描いた舞台美術(デイン・ラフリー)である。可動式のスクリーンやパネルを駆使し、物語の進行に合わせて空間が広がったり狭まったりする。立体感のあるプロジェクションやホログラムを交え、iPhoneの画面をスワイプするように鮮やかに切り替わる。特に蛍を見に行くシーンのリリカルな美しさは忘れがたい。
演出は「パレード」でトニー賞を受賞したマイケル・アーデン。複雑な舞台進行を抑えたトーンでまとめ上げ、彼の優しい視線が作品全体に温かさを与えている。
心温まる感動と共に劇場を後にした。凝った舞台セットだけに見切れる席もあるため、なるべくセンター寄りの席を確保することをおすすめしたい。2024年の「ハッピーエンディング」にふさわしい舞台である。
Maybe Happy Ending
■会場:Belasco Theatre
111 W. 44th Street
■$45〜
■上演時間:1時間45分
■maybehappyending.com