Advertisement
2025年6月13日掲載|9
長屋里奈 Lina Nagaya
「食を通じて希望と喜びを」
プライベートシェフ・栄養アドバイザー/GOTZO CEO
・出身:岐阜県

★「美味しいものを食べる幸せ」が大切
経営者の父は、全国各地を飛び回り、地元のお店はもちろん全国の名店を熟知していたことから、私は子どもの頃から様々なお店に連れて行ってもらいました。同時に、取引先からのお中元やお歳暮で全国の良質な食材が食卓に並び、田舎に育ちながらも各地の食材を体験する機会を得ました。さらに、祖父が趣味の猟で得た猪、鹿、雉、熊などのジビエ、新鮮な鮎や珍味、祖母が畑で育てた野菜やキウイなど、常に新鮮な素材が身近にありました。こうした環境からさまざまな食材を味わったことで、自然と舌が養われたものと思います。
父は母に「食費はケチるな」と言っていたそうです。食事は健康の基本であり、仕事、勉強、精神の状態、すべてに通じるもので、何より「美味しいものを食べる幸せ」を大切にしていた人でした。マナーにも厳しく、ご飯を一粒残さず食べること、魚の食べ方、茶碗の持ち方まで厳しくしつけられました。この経験から、食べるもの、それを生産してくださる方への感謝の姿勢が育まれました。加えて、食について教えてくれた父を、末期癌で亡くしたことも「食事」について深く考える要因になっていると感じています。
Advertisement
★注目は地中海料理・インド料理
現在、私が注目しているのは地中海料理とインド料理です。地中海料理は、魚介類やオリーブオイル、色とりどりの野菜、豆類を豊富に使い、バランスの取れた食事として米国でも多くの学術研究で健康効果が認められています。インド料理は、スパイスの薬効を取り入れた料理で、特に抗炎症作用のあるターメリックやクミン、免疫力アップに繋がるスパイスの使い方が興味深く、和食にはないアプローチとして学んでいます。
ソフト&スムース食については、現在、嚥下食の開発をしています。日本でも米国でも嚥下食専用のとろみ剤がありますが、私は自然の食材だけでとろみや形を整えることを目指しています。特に米国では添加物や保存料を避ける人が多く、病気や術後の方には安心して口にできる自然素材の食事を作りたいなと思うようになりました。今は、葛粉や煮凝りといった日本の伝統技法に注目していて、それらを活かした嚥下食の試作を行っています。

★日本食が「ヘルシー」だと言われる理由
日本食がヘルシーだと言われる理由は、食材の選び方・調理法・食事スタイルにあります。調理法では、煮る・蒸すといった方法を多用するため余分な油を使わずに旨味を引き出す。また発酵食品の味噌や醤油を使うことで、腸内環境を整え免疫力を高める効果も期待できます。
食事スタイルも、一汁三菜を基本とした少量多品目で、様々な食材を少しずつ食べることで自然と栄養バランスがとれます。例えば、米国のシチューも美味しいですが、炒め油や調味料が多くカロリーが高くなる傾向にあります。一方、日本の煮物は旨味を活かしながらヘルシーに仕上げるのが特徴。ただし、日本食は塩分過多になりやすいため、その点には注意が必要です。

★「食」「食文化」「料理」とは
「食」は、ただ生きるための栄養を摂るだけでなく、人に喜びや幸せを与え、心と体の両方に栄養を届けるもの。人間にとって不可欠なものです。「食文化」は、一人ひとりの人格形成や人生に深く関わるもので、その人のルーツや生き方が食を通して現れるものだと感じます。食文化はその人自身の生まれてから死ぬまでの人生の歴史に深く関わっています。「料理」は、人の心の奥深くに訴えかける力があります。父が亡くなった後、思い出の味を食べた時、涙が止まらなかった経験があります。その一皿の料理が中枢神経にまで響いたのだと思います。そんな経験をされた方は少なくないはず。料理にはそれほど人に影響を与える力があると信じています。私がこれらを通して最も伝えたいのは、「食べることの喜び」と「食べることで得られる心と身体の健康」です。料理は単に空腹を満たすためのものではなく、人の心に寄り添い、時にはその人の人生の記憶を呼び起こし、心を癒す力があると思っています。そして、食文化はその人のルーツや生き方を映し出す。私は多様な食文化に触れながら、食の力で人と人を繋げ、誰もが幸せを感じられる場を作りたいと考えています。何より末期癌患者の方でも、心から楽しめる食事を届けることが、私の料理人としての究極の使命の一つだと感じています。
★目指す「料理人」のかたち、将来のビジョン
日本の料理人として、繊細な心遣いや思いやりの気持ちを常に大切にし、きめ細やかなサービスの提供を目指しています。将来は、栄養学の知識と日本食の知識を融合させ、私にしかできないユニークなサービスを築いていきたいと考えています。そして、父のように末期癌で食べたいものが食べられなかったり、化学療法で味覚がわからなくなった方々が、残された時間の中で大好きだった食事を口にし、少しでも幸せを感じられるような時間を届けたい。そんな方々に食を通じて希望と喜びを与えられる料理人を目指しています。
https://www.gotzobylina.com
https://www.instagram.com/gotzobylina
https://www.instagram.com/linaskitchenjapan