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よみタイムVol.94 2008年8月1日号掲載

 和室をデザインする投資家 スティーブン・グローバス

日本間のわびさびに魅せられ、変幻自在な彩り演出
今度はひのき風呂を

 

 ユニオンスクエアから数ブロック北、ブロードウエイ沿いのブラウン・ストーンと呼ばれるクラシックな外装を持つ古いタウンハウス。自慢の和室を持つアメリカ人がいると聞いて訪ねてみた。
 エレベーターを降りて長い廊下を曲がると広い部屋の奥に障子が見える。中に入ると、上がり框の前は黒石の玉砂利が敷き詰められた細長い空間、その奥には掛け軸のかかった床の間が端正に客を迎えてくれる。一段高くなった部屋にあがるときちんと片付いた青畳の六畳間がまるでお茶室のようだ。
 中央には掘り炬燵。布団はかかっていないがチェスナット製という重厚なテーブルトップの濃い茶色がほどよく和室に溶け込んでいる。「日本では床をあげる高さは8インチだけど、ここはアメリカなので10インチ上げてるんです」と主(あるじ)はいう。天井は意外に低く、竹の棒が素材のまま天井を覆いつくしてこざっぱりした佇まい。
 完成したのは3年前。日本レストランなどのデザインを手がける日本室内装飾の「宮障子」の花房さんに相談し、和室の作り方をいろいろ検討した。だからこの部屋は、「宮障子」の花房さんとスティーブンさんのコラボレーション作品ともいえるのだそうだ。

 「アメリカの家の中に、本物の和室を効果的にどう作るか、6か月くらいあれこれ図面を書いたり素材を検討したり大変でしたよ。でも楽しかった」この和室に日本から取り寄せた畳が六畳分納まっている。明るい窓際には雪見障子が入り、障子と外側ガラスとの空間には細長いミニチュアの可愛い「日本庭園」が置かれている。いわゆる「箱庭」だ。掃いた跡も清々しい白い砂地の上には石や灯篭、赤い鳥居などが配されている。
 竜安寺の石庭みたいですね、と聞くと「庭はすべて僕一人のアイデアです」と言いながら「ほらねこうして見るといいでしょ?」と雪見障子の下半分を上にスライドしてくれた。ガラス越しに差し込む真夏の強い光が障子で柔らかい光に変わる。
 「忙しい毎日を過ごしてるうちに、日本間の持つシンプルな侘び寂びに魅かれるようになりましてね、ずっと考えていたんですよ。いつか自宅に和室を持とうと」。

 スティーブン・グローバスさん、現在は投資家。若いころ、兄弟で写真にのめり込んだ。デジタルカメラ全盛の今日では、あまり使われなくなったが360度が撮影できるカメラで一世を風靡した「グローバスコープ」の考案者でもある。また、60年代にIBM社によって開発されたあと、下火になっていたプラズマ・モニター部門を技術者・営業部隊ともども買い取り、新会社を設立、さらにプラズマテレビを開発した。事業は最終的にパナソニックに譲渡した。今でも同社のプラズマテレビは業界ナンバーワンだが、スティーブンさんはその立役者でもある。
 パナソニックとのビジネス譲渡調印で大阪を訪れた際、創業者の松下幸之助氏から京都・東山にある茶室「真々庵」に招かれた。
 「その時初めてティーセレモニーというものに触れたんです。あとで聞いたらアメリカ人で私以前にお茶室に招かれたのはフォード大統領だけ、と聞いてビックリ」と笑う。96年のことだった。結局7年半、パナソニックの取締役を務めたこともあって、日本に行く機会も増えた。それまで関心の低かった日本文化に触れ、特に食文化と日本建築に急速に惹かれていく。「パナソニックが門真(大阪と京都の間)にあるでしょ。四半期ごとに役員会議に出るんですけど、大阪と京都、どちらに滞在されますか?」とその都度聞かれたが、いつも即座に「京都」と答えた。京都には好きなものがすべてあった。

 「今度は、京都からひのきの風呂を取り寄せるつもりなんです」と目をかがやかせる。「お客様をもてなすこともできて、自分ものんびり横になれるような、品のいい京都の旅館のイメージが僕の理想なんです」。
 現在は6畳ひと間だが、計画では外側にさらに10畳の部屋とひのきの風呂が建て増しされる。完成がいつになるかは今のところ未定。「検討してる段階が楽しいんだ」と笑う。
 この六畳間にはひとつ仕掛けがある。日本のテレビでも紹介されたが、さすがプラズマテレビのRGB(色の三原則)の専門家、和室両側にある障子の向こうには「赤、緑、青」の蛍光管が設置されていて、部屋を暗くすれば、リモコン操作ひとつで、障子紙を通して柔らかい光が文字通り色とりどりの色調を醸し出してくれる。ひとつのシンプルな日本間でありながら幾通りにも表情が変わるのだ。
 自然光ばかりでなく、気分次第で和室に色を加えるというアイデアはさすがだ。
 毎年2月にジャパンソサエティで、自分の名前を冠した「グローバス・フィルム・シリーズ」というプログラムをスポンサーしている。2期目の今年2月には日本から映画の活弁士を招き日本のアニメーションの黎明期の作品を紹介した。「来年2月にもユニークなプログラムを用意します」
写真、映像、プラズマ・モニターに半生を捧げてきたスティーブンさん、これまでの技術と感性が自宅にしつらえた和室作りで遺憾なく発揮されている。
(塩田眞実記者)