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 よみタイムについて
 
 
よみタイムVol.115 2009年6月19日号掲載
作家 アンディ・ラスキン

「ラーメン王と私」を上梓
ラーメンの神様、安藤百福に心酔
今も書き続ける心の手紙
自分を見つめなおすきっかけに

 


Gotham Books刊

 本のタイトルは、ブロードウエイやミュージカル映画「王様と私」をもじったもの。「ラーメン王」とは、即席ラーメンの生みの親、戦後間もなく掘っ立て小屋にこもってインスタントラーメンの開発に全身全霊を賭けた安藤百福その人のことである。
 アンディさんは、ニューヨーク出身のジャーナリスト。高校時代のオーケストラ旅行で初めての日本体験を持つ。イエール大学時代に、子どものころからの夢、チャイニーズのメニューが読みたいがために漢字=中国語を志すが、朝の早い授業を断念、日本語を選択したという変り種。その後、ICUにも留学して日本語をブラッシュアップ、ウォートンで、MBAを取得してからマネジメント・コンサルタントとなり、頻繁に日米を行き来し、特に顧客があった九州福岡の食文化にはうるさい存在となった。その後ジャーナリストに転身、現在もサンフランシスコで活躍中だ。
    ◇
 即席ラーメンの発明者、安藤百福の存在を知った経緯が変わっている。日ごろ、日経ビジネスを購読していてたまたま安藤百福の特集記事を読んだ。その時は特に興味を感じたわけではなかった。
 ある時、異性関係でつまずく性癖から抜け出したいとモガク人々をサポートする支援団体から「神様に手紙を書いてみたらいい」と勧められた。郵送を前提にしない自分を見つめるための手紙を書くことで、心のうちを探ろうというものだった。
 そんな時、安藤百福の名前が頭をよぎった。「拝啓 安藤百福 様」で始まる手紙を書くようになる。
 ちなみに即席ラーメンの神様は、07年1月5日に享年96歳で世を去った。2日には日清食品の幹部とゴルフを楽しみ、亡くなる前の日は仕事始めで社員の前で訓示を垂れたという。伝説にもなったインスタントラーメンの巨人、新入社員には研修期間中、チキンラーメンしか食べさせないとか、長寿の秘訣は毎日食べるチキンラーメンと豪語した。
 「大阪ドームで行われた大規模なメモリアルサービスに行ったんですが、真っ暗な中でライトが星屑のようにきらめいて、巨大スクリーンには銀河や月などが映しだされてる、まるで安藤百福が宇宙に帰って行くような壮大な演出が施されてましたね(笑)」と懐かしそうに振り返る。
 日本のあるテレビ番組をまねて、安藤百福にアポなしの特攻訪問を試みるが、90歳を超える高齢であったため広報担当者はどうしても首を縦に振ってくれなかった。安藤百福に個人的に会うことは適わなかったものの、アンディさんは次第に安藤の中に霊的指導力を見出していく。
 「この本で書きたかったことは、二つあるんです。ひとつはもちろん非凡な安藤百福のこと。もうひとつは少年時代から自分にまとわりつく恥の意識をどう克服するかという自分との格闘」という。と言っても、トーンは明るく、エピソードはユーモアに溢れ、頑固な寿司屋の話や特に現在の日本文化の好意的な紹介のくだりは頼もしい。
 副題は「ラーメンの発明王はいかにして僕の性生活を矯正したか」となっていてショッキングだが「昔からどうしても腰が落ち着かなかったんです。一人の女性とまだきちんと別れる前に、ほかの女性とデートしたりセックスしてしまったり、恋愛をサボる、それの繰り返しだった」普通のだらしないだけの男と違うのは、そういう自分を見つめる冷静な自分の存在に気づき何とか抜け出したいともがいていたことだ。
 初めのうちは効果も疑問だった安藤百福への手紙も書き続けていくうちに、自分の女性に対する行動パターンが見えてきた。同時に安藤百福自身にも次第に興味が生まれ、知れば知るほどその魅力の虜になった。見えなかった接点が、おぼろげに見え始める。安藤百福のビジネス成功の裏に得体の知れない自分と似たような「恥」が隠されているのではないか。
 安藤百福の、台湾人としての生い立ちがそうさせたのか、あるいは他に理由があるのか。3人の妻との葛藤があったのか。一方、アンディさんが少年時代から感じている両親、特に父親から愛されていないのではという不安な感覚。繊細な子ども心の一人相撲だったのかも知れないともアンディさんは思う。散歩道を父親と歩きながら、気がつくと父親にどんどん置いていかれる。遠ざかる父親の背中。両親の度重なる喧嘩、叩かれる時の記憶、それでも表面的には子どもに対するケアはよかったほうだと思う。ついついだらしなくなってしまう女性関係が、何かからの逃避であるのでは、と思うにいたった。
 2度の大破産を経験する安藤百福が、裏庭に小屋を建ててインスタントラーメン開発にのめり込んだエネルギーは、内なる恥からの逃避だったのではないか。アンディさんは華々しい作家として人生を再スタートさせたが、天に戻った安藤百福への心の手紙はこれからも絶えることなく続くようだ。
(塩田眞実記者)