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 よみタイムについて
   
よみタイムVol.87 2008年4月18日号掲載

クリスティーズ・日本美術ディレクター 山口 桂

一度は反発、でも血は争えず
9月の競売に向け奔走中
フランスに学んだ日本美術のすごさ


Christie's

 有名オークションハウスのクリスティーズで先ごろ、運慶作と見られる大日如来像が1437万ドルで落札され、世界中で大きな話題を呼んだ。海外で落札された日本美術では最高額。クリスティーズで日韓美術部門を担当する山口桂さんにとって、勤続15年間での最大のイベントとなった。

 吉本興業のお笑い芸人「DonDokoDon」の「ぐっさん」こと山口智充に良く似ており「よく、ぐっさんのお兄さんですか」と間違われるそうだ。
 ロンドンとニューヨークで約2年間研修社員として働いた後に本採用になり、東京オフィスで4年間勤務した後、00年からニューヨーク勤務に。以来ずっと、日韓美術のスペシャリストとして、現在のポジションに就いている。
 「東京ではオークションをやらないので、もっぱら営業回りでした。日本人のお客様が買ったり売ったりするときにお手伝いしたり、オークションにかける美術品を集めるのが仕事でした」。
 1999年、ニューヨークオフィスが日韓美術スペシャリストを探していた際に、思いきって立候補したのが、今のポジションを獲得したきっかけだった。
 「本当は、東京で誰か適任者を探して欲しいと、僕のところに人材探しの要請がきていたんです。でも探しても誰も見つからず、それなら自分で立候補しようと」。

 もともと日本美術に興味があったかというと、「そうじゃないんですよ」と言うが、日本美術の「血」は、本人の好むと好まざるに関わらず、体の中に流れていた。
 日本美術史の教授で、浮世絵学会の会長である父、山口桂三郎氏と過ごした幼少時代を、山口はこう語る。
 「父は昭和3年生まれの、明治の生き残りのような男で、和風人間なんです。小さいころから、夏休みになると京都や奈良に連れて行かれて、仏像を見せられたり、名前を覚えさせられたり。子どものころはそれが嫌で嫌で仕方がなかったんです」とニガ笑いする。
 こうした経験から「日本のものが嫌いになった」とサーフィンやローラースケートなどアメリカ・ファッションに染まっていった。
 特別フランス文学に興味があったわけではないが、立教大学では仏文科に進んだ。そこで、19世紀フランスのサロン文化を通して、当時の印象派の画家たちが日本の浮世絵に大きな影響を受けていたことを知る。代表的な画家にゴッホやモネがいる。
 「当時の浮世絵は、アートとして輸出されたんじゃなくて、陶器などの包装紙、下敷きに使われていたんです。フランスの画家たちはそれを見つけて価値を見取っていたんですね」とフランス人が日本美術に大きな影響を受けたことに感動したという。
 これが、未来のクリスティーズ日韓美術スペシャリストとしての、第一歩だったかもしれない。

 運命の第二歩目は、大学を卒業し、いったん就職した後のことだった。
卒業後は映画や音楽、アートが好きだと漠然と思っていたものの、何をしたいのか分からなかった。日本はバブル景気に沸いていた。取り合えず広告代理店に就職、営業を3年半やった。
 仕事は面白かったが、ちょうどそのころ、父親が大学の研修で1年間海外で浮世絵などの調査をすることになった。「休職して一緒に来ないか」と誘われると、ひそかに退職して父とともにニューヨーク、ボストン、イギリスと回った。
 「大英博物館、ボストン美術館やメトロポリタン美術館の倉庫など、父のおかげで普通なら絶対に行けない場所に行き、たくさんのすばらしい日本の美術を見ることができました。これだけの日本美術が外国の美術館にあるのかと驚きもし、感動もしました。この時に、日本美術への気持ちがより深くなりました」と振り返る。
 研修が終わると、当時クリスティーズの日本担当だったイギリス人が、たまたま父親の教え子だった関係もあって1年間ロンドンで研修できることになった。初めて「自分の進むべき道」が定まった。「この世界で生きてみよう」と。

 今年春の日韓美術オークションは、大日如来の大落札という形で終わったが、早くも次の仕事の準備に追われている。今秋の9月18日に日韓美術秋のオークションがある。400点もの品集めのため5月から日本、韓国を訪れる。
 「僕の仕事は、かっこよくいうと文化交流大使ってところでしょうか」と笑う。日本美術をニューヨークから世界へ発信するため「ぐっさん」にゆっくり休める時間はない。   (ささききん)