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よみタイムVol.77 2007年11月16日号掲載


「静けさ」がライフワークのテーマという井上さん
写真家 井上壽美男さん

フローレンス・ビエンナーレ、2度目の招聘受ける
和紙の印画紙に焼きつけ
賞獲得して世界めざす

 ニューヨーク在住の写真家・井上壽美男さんが、12月8日からイタリアのフローレンスで開催される「フローレンス・ビエンナーレ」展に2度目の招聘を受けて作品を出品する。
 フローレンス・ビエンナーレは、1998年に始まり今年で7回目。01年には国連のプログラム「国同士の対話」のパートナーに正式に選ばれた。アナン総長(当時)は「アートは世界中の人と国に学習、理解、平和への新しいドアを開いてくれる」と力説した。絵画、グラフィックス、ミックス・メディア、インスタレーション、写真、デジタルアートの分野がある。井上さんは05年にも出展している。
 作風は、聞かされていなければ写真とは思えない。「ほとんどの人が銅版画ですかって聞きますね」と微笑む。作品のシリーズ名は、「Silenzioso」ー静けさーという意味のイタリア語だそうだ。
 このテーマは、コマーシャルの世界から飛び出て自分の作品を撮り始めるようになってから、一度もぶれることのない井上さんのライフワークだという。「ふぞろいに並んだ誰も腰掛けていない教会の椅子」「人を乗せていない回転木馬」「切り取られたような裏町の空間」。
 人影は極力排除され、どの作品にも「深みを帯びた静謐(せいひつ)」が溢れ、光と陰はモノトーンの世界に重量感を与えている。こうした味を持つ井上さんの写真作品に欠かせないのが、独自のアイデアによる「印画紙」だ。1センチ以上もある「分厚い和紙で出来た印画紙に焼き付けている」のだ。
 「和紙を手でちぎって水分を加えミキサーて粉砕し、さらに糊を加えてドロドロにします。深さ3センチはある木枠に流し込んで、紙漉きをします。再生紙作りですね」。 
 水分を含んだ和紙は重い。「30キロくらいを持ち上げてるような感じですね。だからこれ以上大きいものは物理的にムリなんです」。2枚くらいを漉いて一日が終わる。3〜4週間、自然乾燥させたあと「印画紙」にするために表面に乳剤を塗る。「塗るのは2時間くらいで済むんですが、湿気や温度で、沁み込みかたが微妙に違い失敗も多いです」という。
 暗室の中で、ゴツゴツした岩のような表面を持つ井上さんだけの印画紙に被写体が浮かび上がることを想像すると、何となく神々しいものすら感じてしまいそうだ。
 「初めは他の素材もいろいろ試したんです。流木とか。でもコストがかかったり、手軽じゃない。運良く義弟が紙屋をやっていて、和紙が持つ味と便利さとで素材を和紙と決めたんです」。ニューヨークにいる間はもっぱら、この紙漉きと撮影に時間を費す。現像は機材や水場などの都合もあって東京で行っている。
 ほぼ3か月おきにニューヨークと日本を往復。東京にはヘアメイク・ビジネスを経営する裕子夫人が家を守っている。最近、大学生の息子から写真を見せられ意見を求められた。「初めてのことだったけど、思った以上にしっかり撮れていて嬉しかったですね」と父親の素顔ものぞかせた。
(塩田眞実記者)