Copyright 2007 YOMITIME, A Division of Inter-Media New York, Inc. All rights reserved


お特な割り引きクーポン。
プリントアウトして
お店に持って行こう!

イベント情報





他にショッピング、ビューティー、
企業情報なども準備中!

 連載コラム
 [医療]
 先生おしえて!

 [スポーツ]
 ゴルフ・レッスン

 NY近郊ゴルフ場ガイド


 [インタビュー]
 人・出会い
 WHO
 ジャポニズム
 有名人@NY

 [過去の特集記事]

 よみタイムについて
   
よみタイムVol.75 2007年10月19日号掲載

ソプラノ歌手 田村麻子

オーディションで金的射止める
欧州で実績、米国で開花

 「知られざるイタリアオペラを紹介しよう」という試みで11月13日、リンカーンセンターのエイブリーフィッシャーホール(テアトログラッタチェーロ主催)で2つのイタリアオペラが上演される。そのひとつ「神託」(L'Oracolo)の主役に抜てきされた。
 ミラノ出身の作曲家・フランコ・レオーニ(1864ー1942)の代表作でサンフランシスコのチャイナタウンを舞台に展開する悲劇。田村は悲劇のヒロイン役を演じる。オーディションを通過してメジャーのオペラで主役の座を射止めた日本人は初めてという。
 「オーディションは慣れてますから」と笑い飛ばす。過去に何度となく受けてきたオーディションでの苦い想い。オーディションに通って役が取れるようになってきたのは最近の事だと言う。
    ◇
 京都府出身。4歳からピアノを始め、ピアニストを志していたが、手が小さいなどの理由で断念せざるを得ず、声楽の世界に入った。子どもの頃から「歌もピアノもうまい天才少女」と周囲から認められていた。
 「よく、人前でピンクレディーや久保田早紀の異邦人なんか歌ってましたね」。
 「本格的に声楽家の道」を目指し、国立音楽大学声楽科、さらに東京芸術大学院修士過程オペラコースを終了。世界を夢見てニューヨークへと98年飛び立った。
 ニューヨーク・マネス音楽院では首席で卒業。プラシド・ドミンゴ国際オペラ・コンクールに最年少で入選を始め、メトロポリタン歌劇場全米コンペティションなど世界の主要コンクールでいずれも上位入賞するなど順風満帆。
 華々しいキャリアだが、いざ世界を目指すとなると壁は厚かった。歌のうまいソプラノ歌手はごまんといる。いざ劇場のオーディションを受けても「歌は素晴らしいが経験が」といつも不合格。
 この世界ではなかなか学校出たての新人の出る幕は少ない。その上「東洋人の歌手」ということも大きなハンディキャップになっていた。
 「オリエンタルのソプラノだと分かると、満足に顔も見ないで、サンキューという事もありました。めちゃくちゃ落ち込みましたね」。それでもあきらめずに「これでもか、これでもか」と挑戦するが、なかなか仕事につながらない。
 歌を上手に歌えば賞に入るコンぺティションとは違い、オーディションに合格するには、ヨーロッパでの経験が必要だとも感じ、02年舞台をニューヨークからイタリアに移した。「イタリア語を勉強し、一からオペラを学ぼう」と寝る時間も惜しむように没頭した。
また往年の名歌手たちの録画などを見て「どうすれば、人より華やかに見えるか」「適切に感情を表現するにはどう歌ったらいいのか」なども、日夜研究した。
 そんな中、友人歌手の紹介でルーマニアの歌劇場で「出演料はあまり出ないが、出演してみないか」と話があった。お金の問題ではない、何より経験がほしかった。
 航空運賃を払うと、出演料はあっという間に吹っ飛んだ。それでも「初めての大役、ヨーロッパの舞台」と感激した。
 作品はドニゼッティの名作「ルチア」。技巧的なアジリタ(コロラトゥーラ・ソプラノに取っては必須のテクニック)を駆使し、主役ルチアの声はぴったりだった。結果は大成功で、地元紙でも大きく取り上げられた。次の舞台としてハンガリー国立歌劇場から声もかかった。この時は、同じ「ルチア」を「全身全霊で歌った」という。
 こうした経歴は確実に成長の糧となり、また再びアメリカに戻るのに大きなステップとなった。06年サラソタ(フロリダ)でヴェルディの「群盗」の主役アマーリア、エルパソ(テキサス)では「椿姫」のヴィオレッタ役に選ばれている。
 今回のオーディションでも「ヨーロッパの舞台を踏んだ」ことで審査員の目つきも違ってくる。
 「何か歌って」といわれ、プッチーニの歌劇「ジャンニ・スキッキ」からラウレッタのアリア「私の愛しいお父さん」を歌いあげると「ワンダフル!」とかつてのオーディションとは大きな違いがあったという。
 イギリスの音楽評論家グラハム・ケイ氏は「輝く宝石の声」と絶賛している。すでにカーネギーホールなど来年のスケジュールも入ってきている。今、見逃せないオペラ歌手だ。 (吉澤信政)