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「SHＩNBASHI」と書かれた懐かしい看板があった。48丁目５番街から東へ入った北側にガラス張りのモダンな造りだ。ガラス越しにひのきの寿司カウンターがズラリと並ぶ。
高い天井にゆったり感のあるダイニング。地下はソファーをおいたバーカウンター。中２階もダイニングだが、30人ほどのパーティーもできるスペースとなっている。
「もう７年にもなるんですね」と振り返る。ニューヨークの和食レストランとして多くの駐在員やアメリカ人に親しまれていた「しんばし」は74年に同じ48丁目の５番街とマディソン街の間に開店した。当時はまだ、日本食そのものがアメリカでもポピュラーではなかったが、多くの人で賑わった。「アメリカ人に日本食を教えた店」とした高い評価を得た。特に女将の細田婦美子さんは、気風の良さと客あしらいのうまさで、アメリカ人客からも「マダム」と呼ばれ人気があった。
26年間、ニューヨークの高級和食レストランとして君臨してきたが、00年２月リースの問題などがあって閉店。
「しばらくはゆっくりしたい」と思っていたが「もう一度、店の看板をあげたい」と考えるようになった。一度閉じた店を再オープンさせるのは容易なことではない。特に場所や家賃の異常なまでの高騰で、簡単には決められなかった。
「３年半探しました。どこを見ても、納得できるものがなくて」という。以前の「しんばし」のようなゆったりしたダイニング、高い天井、広いキッチンなど多くの条件を揃えているところはそう多くない。今年はじめ、やっと満足のゆく物件に出会えた。本来なら５月完成だったが、３か月のび、８月15日に仮オープン、９月４日から本格的に営業開始となった。といっても、地下のバーラウンジ、中２階のダイニングはまだ完成していない。「10月以降になるのかな」とニガ笑いする。
本格的日本食といっても、近くには寿司田、初花、以前の「しんばし」だった「HARU」と強豪がひしめく「激戦区」。
「しんばしならではの料理を出していきたい」。周辺は銀行、デパート、ＩT関連の米系一流企業が多い。７年前の「しんばし」を知っている顧客も多く残っている。「スローですが、じわじわ体制を整えていきたいですね」と自信のほどをうかがわす。
料理も本格的日本食だけでなく、アメリカ人を視野にフュージョン料理にも力を入れていく。
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１９４９年徳島県で生まれる。その後、母、細田婦美子さんの仕事の関係で東京に移る。日大二高から京都の大谷大学文学部宗教学科に進学。
学生のころから生死を問題とした宗教、特に仏教に興味があった。片っ端から宗教、哲学、文学書を読破した。今も「般若心経」と「臨済録」が座右の書となっている。「大学院に残って勉強したら」と教授から薦められたが、大学で勉強を続けることに何か納得いくものがなかった。
大学時代、僧職に就いて「お坊さんになる」のも選択肢のひとつだったが決めかねていた。そんな折り、母から「ニューヨークに店を出したから手伝って欲しい」といわれた。74年のことである。
全く自分が考えていた仕事とは別だったが「自分を見つめ直す意味でも、ニューヨークで気分転換を図りたかった」。弟・貴一さん、妹の阿紀子さんも一緒に家族ぐるみで店を盛りたてた。
最初はキッチンヘルパー、ウエイター、レジ、メートルディーなどひとりで多くのポジションを経験した。「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」といった簡単な言葉も自然に出てこない。顧客からは「キミは固すぎるよ。もっとリラックスしてやりなさい」と激励されたことも。店が繁盛するにつれ、抜け出せなくなった。
昨年「しんばし」でキッチンを任されていた弟の貴一さんは「わじま」をオープン、「しんばし」の味を引き継いでいる。
今度は兄が母・婦美子さんから教わったレストランビジネス哲学をしっかり受け継ぎ、新しい「しんばし」と創り上げようとしている。
（吉澤信政記者）
しんばしレストラン
７ E. 48th St.
212-813-1009
www.shinbashiny.com
営業時間：昼11：45～14：30
夜17：30～21：45
土曜日はディナーのみ、日曜は休日
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