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よみタイムVol.244 2014年12月20日号掲載

Photo by Satomi Shirai

写真家
松井みさき

希望のない瞬間はない
写真家目指して単身渡米

 「no moment without hope」を座右の銘としている。アーティスト・ポートレートシリーズや、「海」など自然をテーマに写真を撮り続ける松井みさきさんの個展が、ミッドタウンのビル1階ロビー(ICPに隣接)で12月5日から始まった。展示作品は大型プリントばかり13点。2月中旬までの2ヵ月間におよぶ長期展だ。非営利美術団体のチャシャマ(Chashama)の公募に応じ、見事、長期個展開催のチャンスを得たもので、NY7年目となる松井さんの新たな始動が感じられる。
 今回の個展は、松井さんのこれまでのNYの個展の中でも規模、期間ともに最大のものとなる。ロビー・ギャラリーの名の所以はここがオフィスビルであること。殺風景なオフィスビルの1階ロビーをアートで満たし、有効活用しようという動きが盛んになっている。前述のチャシャマもこうしたムーブメントを支えるグループの一つだ。

 6番街43丁目と44丁目の間のロビーの中の様子は、ガラス越しに外からも見える。この「巨大な」空間を埋めるには、これまでの個展で発表してきたようサイズの作品ではどうにもならない。身が引き締まった。作品一つのサイズを28インチX40インチと決めた。「だけど大型プリントというのは正直今度が初めてなんです。すべての作品を新たに仕上げなければならない。幸い、ロビーギャラリーの隣が写真専門の総合施設ICP(インタナショナルセンター・オブ・フォトグラフィー)、私はICPでティーチング・アシスタントを務めている関係で施設・機材が使えるんです、ラッキーでした」と松井さん。しかし、チャシャマから吉報が入ったのは10月下旬、展示は12月5日から。「正直焦りました」と笑う。しかも、壁にクギを打つことは許されず、作品はすべてワイヤで天井からの吊り下げ方式だ。すべてが新たな挑戦となり経験となる。

 これまでの松井さんの作品を見ると、NYに移り住みプロ意識を持って撮り始めたアーティストシリーズがある。一応の目標は100人、現在、その半数を達成しているが、「いつまでにという締切があるわけではないので、ご縁がある時に撮らせていただくというスタンスなんです」と本人が言うように、アーティストたちが創作に打ち込む、自然体で美しい表情を切り撮ってきた。
 一方、こうしたポートレート作品を除くと、松井さんの作品は常に自然の風景が対象だ。特に海には強いこだわりを持ちテーマとすることが多い。「私の名前が『みさき』なので、岬=Cape を意識しています。世界をつなぐ海。その海に突き出す岬のイメージが自分と重なるのかな」
 その海も、いつも穏やかな表情を見せるとは限らない。来米前は広告代理店に勤務するキャリアウーマンで、写真は趣味でしかなかった。絵ばかり描く内気な少女は、なかなか思い通りには運ばない人生を、アートへの憧れは抱き続けながら、クリエイティブな業界を、と広告業界に入る。職種はマーケティング・プランナー。フラストレーションを解消するために勤務のかたわら油絵を習ったり、写真教室に通い、続けてきたバイオリンをオーケストラで弾いた。
 やがて人生に転機が訪れ、「本当にやりたいことをやろう」とNYに渡ることを決意。当時アメリカには行ったこともなく知人もいない、まさに未踏の地、無謀と言えなくもない。なぜ写真家への転身とNYが直結したのだろうか。
 「日本ではその段階から写真家になるのは難しいと思いました。美術系の学校を卒業したわけでもなくキャリアもない私が、写真家になるためにはNYしかないのではと思った。NYなら私の経歴にもこだわらないはず」。やる気と自分を信じる強い気持ちがあれば、長年の夢が叶えられる。NYのダイナミズムの中に身を投じたかった。
 「作品は曇り空とか冬の海、寂しげなのが多いのは確かだけど、どこかに光が見えていたり希望の可能性を残したものが多いんです。人物写真でも、屈託のない満面の笑みを真正面から捉えてるようなショットはないですね。これ、私の感性なんでしょうね」

 毎晩、欠かすことなくブログに一枚の写真と一文をアップしている。「俳句を教える母方の祖父と水墨画を教える祖母がよくひとつの色紙に俳句と俳画でコラボしてたんですね。私のブログは独りの作業だけど」。また、「カリフォルニアに一時的に移民し、写真をしていたことがある父方の祖父の見果てぬ夢が、私の中で息づいていると感じることがあるんです。今日も一日一生懸命生きたぞという自分自身の証として始めたブログですが、ある時から日本の家族や友人たちにも発信できるなと思うようになった。Cape of New York というタイトルにしています」。回を重ねること2500回を超えたこのブログ、今年春、電子書籍となって世に出た。   
 どちらかというと荒涼としたイメージの松井さんの風景写真に、この1年、人影が認められるようになった。琴演奏家とのコラボや映像も始め写真家としての幅を広げつつある。 新天地NYでの助走を終え、矯めを内に秘めていままさに跳躍の姿勢に移ったようだ。
 (塩田眞実)

松井みさき写真展「we are the universe」
■2015年2月17日(火)まで 8am-7pm(月〜金­)
■会場:Lobby Gallery:1133 Ave. of the Americas
■入場無料/メールで要事前予約 Janusz@chashama.org
www.chashama.org
■アーティストHP www.misakimatsui.com