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 よみタイムについて
 
 
よみタイムVol.127 2009年12月25日号掲載
映画監督 佐々木芽生さん
映画初作品で数々の賞受賞
アート収集家の情熱描く
「Herb and Dorothy」

郵便局員だったハーブ(右)と図書館司書だったドロシー夫妻

 この映画は、08年ハンプトンズ国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞と観客賞を受賞。同年、米国で最も由緒ある「シルバードックス」ドキュメンタリー映画祭で観客賞、09年フィラデルフィア映画祭観客賞、同年パームスプリングス国際映画祭で09年度最優秀作品にノミネート、プロヴィンスタウン映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞受賞。10月にはPBS局(13チャンネル)で放映され、12月15日には待望のDVDが発売された。
 マンハッタンのシネマビレッジでの劇場公開は17週のロングランとなり全米では美術館・劇場あわせて100カ所以上で一般公開された。
 作品の主役はアートコレクター(美術収集家)として著名なヴォーゲル夫妻。夫のハーブさん(87歳)と妻のドロシー(74歳)さんだ。
 「偶然2人のことを知って衝撃を受けたんです。一般的にアートコレクターといえば、すごくお金持ちで社会的地位も高い上流階級に属する人たちに限られるという固定観念があるでしょ。でも情熱と本当に心で感じるものに従って行動すれば、普通の人でもこんなところまで出来ちゃうんだ」と目から鱗が落ちたという。
 佐々木さんは元々TV関係のフリーのジャーナリスト。映画制作の経験は全くなくアートの世界の専門家でもなかった。
 「軽く考えてたんですよ。2人に会ってすぐ、じゃさっそく撮り始めましょうかと自分でカメラを回し始めたんです」と笑う。
 しかし、本格的に撮影を始めるとすぐ最初の壁につき当たる。「私がハーブに、この作品のどういうところが好きなの、と聞いても『きれいだから』とか、『好きだから』という答えが戻るだけ。これには弱りましたね。ほんとにドキュメンタリーなんか撮れるかなと不安になっちゃって」と振り返る。
 映画にも登場するアーチストの一人ルチオ・ポッツィに相談すると「ビジュアルアートなんだからとにかく見て、眼からストレートに自分のハートに何かを訴えるものがあるかどうか、それを感じる取る能力が大事なんだ」と言われた。さらに「作品を見ている時のハーブの眼を見てごらん、もの凄い眼になっているよ。言葉じゃない。その確かな眼があるからこれだけのコレクションが築けたんだよ」ともいわれ、「これこそがこの映画で訴えるべきメッセージだ」と気づいたそうだ。
 友人の力を借りてトレイラーが仕上がると06年、トライベッカ映画祭の新人監督助成プログラムに応募、審査にパスして配給会社や映画業界の関係者とのプレゼンに臨んだ。
 「友人や家族ではなく、自分の作品が世間に認められた」瞬間だった。
 「この時が一番嬉しかったですね」と思い出しながら佐々木さんの眼は今でも輝く。完成までにまる4年を要した。作品は、夫妻の実像に迫ることでアートが持つ本質をあぶりだすような鮮やかなドキュメンタリーに仕上がっている。
□   
 ハーブとドロシー・ヴォーゲル夫妻は英国のササビーズが出した「戦後最大のコレクター」という本でもその一人に選ばれ、アートの世界では誰もが知っている。
 60年代初頭から美術作品を買い求め始めた。当時まだ無名アーチストが多いミニマル・アートやコンセプチュアルアートが対象だった。
 実は2人もアーチストを目指し絵を描いていたが、他の人たちの作品のほうがいいと、あっさり断念、見る側に回りジョン・チェンバレンの作品を手始めにコレクションに集中する。
 普通のサラリーマンとして自分たちが本当に気に入った作品だけを給料で買える手ごろな値段でアーチストたちから買い上げた。
 生活は妻のドロシーの給料でまかない、夫の収入を買い付け資金にあてた。定年退職後も生活は妻の年金、夫の分は買い付け資金に回した。時がたち、無名だったアーチストたちは有名になり、夫妻のコレクションの中には、ルチオ・ポッツィやロバート・マンゴールド、ドナルド・ジャッド、クリスト&ジャンヌ・クロードなど一流アーチストの重要な作品が多数含まれていることが世間に知られるようになる。
 コレクションは次第に注目を集め、展覧会のために貸し出されることも増えた。やがて夫妻のワンベッドルームのアパートは、トイレも含め一分の隙間もないほどアート作品で埋まってしまう。幸い小品が多くワンベッドルームのアパートでも初めのうちは問題なかったが、30年を超える収集で次第に作品の数自体も正確に把握できないなどに増えた。
 92年、ハーブとドロシーは当時で約2000点を越える所蔵作品すべてをワシントンDCのナショナルギャラリーに寄贈。ナショナルギャラリーから感謝を込めた年金も得て、アパートのスペースに余裕ができた夫妻はまた収集にひたすらいそしむ。好きなものを集める収集マニアと言ったら言い過ぎだろうか。
 美術収集以外のことには興味を持たないヴォーゲル夫妻は、今も同じワンベッドルームのアパートに19匹の亀や魚、猫と暮らしている。
 佐々木さんは、夫妻に同行して今も記録撮影を続けている。10年には日本での劇場公開も目指しているという。

DVD入手先:
www.herbanddorothy.com