新演出で最高傑作が再演
圧巻の A・マクドナルド
「Gypsy」
ニューヨーク・タイムズ紙の劇評家、ベン・ブラントリー氏をしてアメリカ最高のミュージカルと言わしめた「ジプシー」。2024年12月19日、ついにマジェスティック劇場でオフィシャル・オープンしました。この30年間、ブロードウェイ作品を観続けて来た筆者ですが、こんな経験は生まれて初めて。観客の歓声が大き過ぎて、オーケストラ演奏が聞こえなかったのです。それほどまで観客が待ち望んでいたのが、オードラ・マクドナルド(54歳)演じる〝ママ・ローズ〟でした。
主人公のローズは、いわゆる強烈なステージママ。舞台に出ているのは子役の娘なのに、娘が忘れた小道具を手に自らステージに〝登場〟することも。たまのご馳走を食べにレストランに行くと、家族のためにと銀器をカバンにゴッソリ忍ばせる。
なぜこの強烈なキャラクターのママ・ローズがこんなにも愛されているかと言えば、やはり憎めないからでしょう。観客もママ・ローズが歌う2曲の名曲『エブリシング・カミングアップ・ローゼズ』と、ファイナルの『ローゼズ・ターン』を聞きにやって来ているのです!
ブロードウェイの伝説的女優エセル・マーマンが初演して以来、アンジェラ・ランズベリー、バーナデッド・ピータースと名女優が歌い継いできたこの「ジプシー」。オリジナル脚本のアーサー・ローレンツが演出を手がけ、パティ・ルポンが主演した18年前の舞台を覚えてる人もいるでしょう。妙齢を迎えたブロードウェイ女優が、生涯に一度は演じたいと願ってやまない「ジプシー」の主演が、54歳になったオードラにようやく回ってきた、というわけなのです。
これまで、トニー賞に6度も輝いたオードラは、ブロードウェイにとって特別な存在。圧巻は、ジュリアード仕込みのオペラ式で歌い上げるソプラノの高音と、他の追随を許さないファルセットのかかったロングトーン。一曲聞いただけで、彼女の底知れない才能を感じることができます。
脇を固めているのも、ミュージカル「屋根の上のバイオリン弾き」で主演したダニー・バースティンと、ミュージカル「君に読む物語」で、若きアリーを演じていたジョイ・ウッズら主役級がズラリ。
さらに、演出がミュージカル「ブリンギングダノイズ・ブリンギングダファンク」でトニー賞に輝いたジョージ・C・ウルフとくれば、どこからも非を指摘され得ない布陣で臨んでいることがわかります。
もちろんオードラが仔犬を片手に客席通路から登場しただけで、観客は大興奮! 幕が上がって間もないというのに、一階席はスタンディングオベーションでオードラを出迎え、歓声で彼女の名ゼリフ「シンギングアウト・ジューン」が聞き取れないほど、皆がヒートアップしていました。
今回のステージ、日本人にとってちょっと嬉しかったのは、東京宝塚劇場で〝銀橋(ぎんきょう)〟と呼ばれる舞台(エプロンステージ)が設置されていたこと。これによって指揮者やオーケストラより前で、役者が歌ったり踊ったりする姿が間近に見られ、臨場感と一体感が感じられました。
そんな銀橋のど真ん中で、ストリップ・スターとなった娘の楽屋から、ちょろまかした豪華な衣裳をまとい、「今度こそ自分の番よ!」と高らかに歌い上げるラストソングこそ、観客が待ち望んだ大団円!
18年前、存命だったアーサー・ローレンツ(89歳)は、自作を演出するにあたり、改めてこう語っていました。
「『ジプシー』は、ハッピーエンドだからいいよネ」
終わり良ければすべて良し。理屈抜きに心底楽しめる娯楽作品で、新しい年を祝いましょう!(佐藤博之)
Gypsy
■会場:Majestic Theatre:245 W. 44th St.
■$69〜
■2時間40分
■https://gypsybway.com