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2025年3月14日号掲載|8
抽象と具象、秩序と混沌
異なるものに調和を
川植隆一郎(画家)+粟津友菜(シルクスクリーン作家)
ブルックリンを拠点に活動を続けるアーティスト、松山智一が主宰する「松山スタジオ」では、松山氏を師と仰ぐアーティストやキュレーターたちが日々、切磋琢磨を続けている。
同スタジオに席を置く2人のアーティスト、川植隆一郎と粟津友菜によるコラボ展「ビジョンの融合:未来への旅(Fusion of Vision: A Journey into the Unknown)」が、3月13日(木)から5月31日(土)まで、ミッドタウン・サウスの「ジュエル・ハウスNYC」で開催される。

松山スタジオで出会った2人。
川植は生まれも育ちも大阪で、富山大学芸術文化学部に進学、卒業後は富山でアート活動を展開。初のニューヨーク旅行で「この地でアーティストとして挑戦してみたい!」と強く感じたことから、2023年に来米。これまでに7回の個展に加え、グループ展にも積極的に参加している。
「来米後、作風がガラッと変わりました。ニューヨークから得られる刺激や、松山さんからのアドバイスで、今まで用いなかったモチーフや色を使うようになりました。より自分を曝け出した絵を描けるようになって来ていると感じています」
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一方の粟津は、京都市立芸術大学・美術学部で版画を専攻。卒業後はニュージーランドで約1年程、美容業務に従事。帰国後は世界を舞台に活動する複数のアート・スタジオに勤務した。
ある日、友人の紹介で見た松山スタジオのインスタグラムで、アート・スタジオの先輩が働いていることを発見。以前から「ニューヨークに住んでみたい」と思っていたこともあり、同スタジオへの応募を決意。2024年に来米した後、2度のグループ展およびワークショップに参加している。
「日本で働いていた2つのスタジオでは、『作り手(ペインター)』として働いていましたが、今は『思考する側(デザイナー)』として活動しています。立ち位置は違いますが、当時の経験がとても役に立っていると感じています」

「実は、川植さんのファンだった」という粟津。年齢や出身地も近く、日本で共通の知人がいたことなどからも意気投合。コラボ作品は主に、粟津が川植のアシスタントという関係だ。緻密な画風の川植と、デザイン的要素が強い粟津のシルクスクリーン。川植が描く自由なドローイングが、ポップな色彩で遊び心に溢れた粟津のシルクスクリーンと組み合わさることで、これまでにない視覚的なインパクトを生み出す。
とはいえ、異なる作風のコラボは、「思っていたよりも簡単な作業ではなかった」と、2人は声を揃える。
「お互いの個性を出しながらも一枚の作品としてのクオリティを保つことに気をつけています」と話す川植と、「川植さんのドローイングの良さを、いかに引き立てられるかが重要課題」と話す粟津。始めにある程度の構成を決めた後、制作しながら意見を出し合い、試行錯誤を繰り返す。「独りでは出来ない表現。2人が持つ、それぞれの感性の重なりが、魅力的であり刺激的である部分」と、互いを尊重し認め合う。「最終的にどんな絵になるのかは分からない」という過程で生まれる新たな価値観や意外性が、作品の完成度を高めていく。

川植は、「芸術とは生活そのものであると感じています。だから、キャンバスに向かう時間以上に、日々の生活での『気付き』を大切にして生きています。それらは僕の人生を豊かにしてくれ、裏切ることはありません。自分の内面を惜しみなく絵に昇華させ、人の心に響くような作品を作りたい」。自身の作品を観た人々が、同じように何かの「気付き」を感じて欲しいと願う。
粟津は、「どのような形であれ、鑑賞者が少しでも心を動かされる作品を作りたい。展示に限らず、さまざまなコラボアートに携わっていきたいです」と、意欲を覗かせる。
「いろんな国を訪問し、様々な人・文化と触れ合いたい」という川植と、「南インドのハンピで石を眺めながらぼーっとしたい」という粟津。今回のコラボ展「ビジョンの融合:未来への旅」は、「抽象と具象」「秩序と混沌」という相反する状態を1つの作品とすることで調和を生み出そうと試みた2人の野心的なエキシビションとなる。
川植隆一郎+粟津友菜コラボ展
「Fusion of Vision: A Journey into the Unknown」
■3月13日(木)〜5月31日(土)
※オープニングレセプション:3月13日(木)5-8pm
■会場:Jewell House NYC
46 E. 21st St. 3rd Fl.
■入場無料
