よみタイム|2024年11月29日号・Vol.483デジタル版 & バックナンバーはこちら

Detail, 番外編:異様なジャーナリズム、姦しく石破退陣勧告

異様なジャーナリズム
姦しく石破退陣勧告

10月27日、衆議院議員の総選挙が行われた。既に大方の読者がご存知の通り、自民党が議席を大幅に減らし、公明党との合計でも過半数を大きく割り込む惨敗を喫した。

選挙の結果を振り返っておこう。

自民党は公示前の247議席から50議席以上減らし、公認候補の当選は191にとどまった。開票確定からしばらく経って、裏金問題で離党処分となりながら参院から鞍替え立候補を強行して当選した世耕弘成(和歌山2区)をはじめ、非公認とされ無所属で当選した萩生田光一(東京24区)、平沢勝栄(東京17区)、西村康稔(兵庫9区)の4人に加え、無所属で立ち自民党公認候補を破って当選した三反園訓(鹿児島2区)と広瀬健(大分2区)の計6人の自民会派入りが伝えられたが、それでも197議席で過半数の233には遠く及ばない。頼みの連立与党・公明党も8議席減の24で、自公両党を合わせても221議席の少数与党となった。

石破茂首相
衆議院本会議で内閣総理大臣に首班指名された石破氏(2024年10月1日)(写真提供:内閣官房内閣広報室)

野党第一党の立憲民主党は50議席伸ばして148。国民民主党は7議席から4倍増の28、れいわ新選組と参政党がそれぞれ3倍増の9議席と3議席に伸長。一方、日本維新の会は、逆に6議席減らして38。共産党も2減の8議席。新登場の日本保守党が3議席。社民党は1議席。無所属は自民会派入りした6人を除くと6人となった。

無所属議員と日本保守党を除く、いわゆる「野党」の議席を合わせると235となり過半数を超えるが、この野党連合で政権を作ることはない。

それならば、石破茂首相が政権を継続する可能性が最も強いのだが、「政局」報道が大好きな日本のジャーナリズムには、石破を辞めさせたい空気が充満している。

開票前後に発行された週刊誌の広告には、「石破退陣」と特大の活字が躍ったし、朝日新聞は10月28日付社説に、「『自公で過半数』という自ら設定した最低限の目標すら達成できなかった以上、石破首相は職を辞すのが筋だ」と退陣を迫った。発行部数最大の読売新聞も29日付社説で「政権に居座り、政局の混乱を長引かせることは許されない。速やかに進退を決することが憲政の常道である」と、大上段から辞任を呼びかけた。

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夕刊フジも、「大惨敗を喫しながら、責任も取らずに『政権居座り』を画策している。首相を指名する特別国会召集を前に、なりふり構わぬ多数派工作を続けている。『政治は最高の道徳』と言われるが、筋の通らない続投に突き進む石破首相や党執行部への逆風は増すばかりだ」と断じた。失礼ながら、夕刊フジあたりに「最高の道徳」を振り回されるのは、笑止千万だ。

「政局」とは、首相の進退をはじめ、党内の主導権争い、要職人事、衆議院の解散など、政権にまつわる「抗争」と言えるもので、国会内での論戦によるのではなく、党内の派閥や人脈を通じた「場外」の争いを指す。日本の政治記者たちは、この政局報道に異常な関心を示し、政局が起きなくても「起こしてしまおう」と行動する。まことに異様なジャーナリズムとしか言いようがない。

本流の政治報道がこんな具合だから、評論家たちも政局に熱狂する。経済評論家で「日本再建プランナー」を自称するY・Aなる人物の評論には呆れるというより怒りを禁じ得なかった。

曰く、「石破総理は自民党を勝利させるために今回奮闘したのではなく、自民党の保守派にダメージを与えることを最優先し、その結果として自民党が敗北しても全く構わないという考えのもとで選挙戦を戦ったのだと、私は考えている(中略)その意図は、非常に大きな成果を上げた。総選挙前後での衆議院議員における旧茂木派の減少率が約15%、麻生派、旧岸田派の減少率が約20%、旧二階派の減少率が約30%にとどまる一方で、総選挙前の最大勢力であった旧安倍派は、59人だったところから20人へとなんと66%も数を減らし、ほぼ1/3にまで勢力を大きく落とした」――

今回選挙の焦点が、いわゆる裏金問題をめぐる「政治とカネ」であったことを思えば、その張本人だった旧安倍派の議員に有権者の鉄槌が下されたのは当たり前の話であって、何も不思議はない。それを石破が初めから狙って選挙を戦ったなどとする論理は、邪推を通り越して、下品かつ軽薄な誹謗中傷としか言いようがない。

「石破総理は中国を利するような動き、中国に気を遣う動きをすることでも知られており、今回の動きの背景にも中国が絡んでいるのではないかと、私は考えている」とも書いていた。石破が中国ロビーだという話は、私には初耳であって、「防衛オタク」と言われてきた石破が、日本の安全保障上、「仮想敵国」とも言える中国に「気を遣う」のはスパイの所業である。これも安易かつ根拠のない邪推であり、政治家石破の名誉を毀損する発言である。

むろん石破にも責任がないわけではない。
総裁選に勝利した時点で、党内には「次の幹事長は森山裕で決まり」という空気ができていた。閣僚経験こそ農水相一度きりだが、国会対策委員長を歴代最長期間務め、党内にも野党にも敵を作らなかった。その後も、選対委員長、総務会長と、切れ目なく要職を繋いできた。過去には地元鹿児島の暴力団との緊密な関係なども記録されている人物が、「党内きっての人格者」なのだという。

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私は、こうした評判を眉に唾をつけて聞いていたが、党内基盤が薄いまま総裁に当選した石破には幹事長就任を断りきれなかったのだろう。その時点で、森山は「党内のことは任せろ」とでも宣告したか。

石破の意志や信条には関係なく、臨時国会召集直後の短期決戦の解散総選挙の日程や、裏金議員も原則公認などは決まっていた。総裁選で「解散前に予算委を開く」と言っていた石破としては、戦後最短とされる解散日程には無論抵抗があったが、「これはもう決まっているんです」という森山に従わざるを得なかった。ただ、裏金議員の公認については「党内融和」を強調する森山に対し「公認権者」として抵抗し、選対委員長にした小泉進次郎の助勢もあって、6人の非公認と、政治資金報告書に不記載の37人には比例復活の道を閉ざすことを辛うじて認めさせた。

横暴とも言える森山の権勢を知らない一般有権者の目に、「ルールを守ると言った石破が約束を守らない」と映ったのは何とも致し方ない。党内大勢に押されて幹事長に森山を起用したのが過ちだった。そして、この森山が選挙終盤に決定打となる独断ミスをしていたことが明らかになった。

10月23日付の共産党機関紙「しんぶん赤旗」が、非公認の前議員が代表となっている党支部に2000万円の政党交付金を選挙公示翌日に送金していた事実を暴露したのである。森山は「政党支部に党勢拡大の活動をするために支給した。(非公認の)候補者に支給したのではない」と文書で釈明したが、支部というのは、そこを選挙区とする自民党議員のために作られている。そこへの送金は支部の代表たる政治家に送られたと見るのが自然である。しかも送金額は公認候補と同額で、公認候補には「500万円は公認料、1500万円は活動費」としているのに、非公認の支部にはまるまる2000万円を「活動費」で支給したこと、選挙期間中の「活動費」と言えば選挙での集票拡大しか考えられない、など納得の得られるものではなかった。

ただ、今回総選挙で大勝したとされる立憲民主党も比例選の得票を見ると1156万票で前回から約7万票しか増えていない。前回比で倍増もしくはそれに近かったのは、国民民主党とれいわ新選組だけだった。

目覚ましい伸びを示した国民民主党は、経済に重点を置いて「手取りを増やす」と若者中心に呼びかけ、年収103万円を超すと所得税が課税される「103万円の壁」解消や、ガソリン税の上乗せ部分の課税を停止する「トリガー条項」の凍結解除などを訴えた。

本稿を書いているのは、11月11日召集の特別国会前で、次の首相が誰になるか確定しているわけではないが、10月末の共同通信調査では、石破首相が責任をとって「辞任すべき」との回答は28・6%にとどまり、「辞任は必要ない」が65・7%。読売新聞の調査でも辞任すべきとは「思わない」が56%、「思う」は29%で、多くの有権者は石破政権が続くことを既成事実と受け止めている。自民党内にも目立った倒閣の動きがあるわけではない。

キャスティング・ボートを握ることになった国民民主党は、連立を組むのではなく、政策ごとに協力する「部分連合」という形で石破政権との関係を構築しようとしているように見える。野党でもない、与党でもない、「や」と「よ」の中間で「ゆ党」になりそうだという。(敬称略)

石破茂首相

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