2018年12月21日号 Vol.340

予算3,500万ドルのスペクタクル
巨大ゴリラ、ブロードウェイ上陸
「キング・コング」

キング・コング
黒子の人形遣いがパペットに息を吹き込む ("King Kong") All photos by Matthew Murphy

キング・コング
不気味な髑髏島のジャングルに佇むアンとカール (Christiani Pitts & Eric William Morris)

キング・コング
コングはアンに心を許すようになる(Christiani Pitts & "King Kong")


来年のトニー賞は、新しい賞を創設することになるかもしれない。俳優、デザイン、どの部門にも当てはまらない「怪物」がブロードウェイ・デビューを果たしたからだ。2018年11月、1933年の特撮映画「キング・コング」のミュージカル版がブロードウェイで開幕した。結論から言うと、ミュージカルとしては改善の余地ありだが、スペクタクルとしては出色。高さ6メートル、重さ900キロの巨大ゴリラに度肝を抜かれることうけ合いだ。

舞台は1931年、大恐慌時代のニューヨーク。女優を夢見るアンは冒険映画の主役を探していた映画監督のカールに誘われ、髑髏(どくろ)島への旅に参加する。島に足を踏み入れた一行の前に巨大ゴリラが現れ、アンをさらってしまう。アンはなんとか脱出するが、カールはこの怪物を仕留めて見世物にすることを思い付く。そして、華々しく興行の幕が開く…。

エンパイアステートビルに戦闘機が出動する有名なラストシーンまで大筋はオリジナル通り。が、現代の価値観に沿った改変が施されている。最も大きな違いは、映画ではコングを恐れて絶叫するか弱いブロンド美人だったアンが誇り高く強い女性として描かれ、コングと心を通わせるようになる点だ。アン役にアフリカ系アメリカ人女優を起用した点も、ポスト「ハミルトン」の時代を意識してのことだろう。
とにかく、コングのパペットが圧巻。自在に動き回り、歯を剥き出し、雄叫びを上げ、さらに愛情や悲しみといった表情も細やかに表現するのだ。その仕組みは、映画やテーマパークで使われるアニマトロニクス(生物の動きを精巧に再現する技術)と人的操作によるもの。舞台裏で全身の動作と顔の表情、舞台上ではロープやポール、滑車を駆使して忍者のような人形遣いがコングを操作する。声だけを担当する男優を含め、コング係は総勢なんと16人。ここまでの動きが可能になるまでどれだけの稽古が必要だったか…想像するだけで気が遠くなる。
コングが髑髏島の鬱蒼としたジャングルから現れ、ニューヨークの街中を駆け抜ける様子は、斬新なプロジェクションで表現。エンパイアのシーンは、観客がビルの中から外壁を登るコングを見る形になり、その工夫には息を呑んだ。

ああ、この凝りに凝ったコング氏が歌って踊れるなら…コングの仕上がりとミュージカルとしての質が、ちぐはぐなのが残念でならない。
まず、お話をアンの成長物語に持って行くのはちょっと首を傾げてしまう。音楽はインストゥルメンタル曲(マリウス・デ・ヴリース作曲)で映画の雰囲気を出しているものの、シンガーソングライターのエディ・パーフェクトによる歌はパンチ不足。ドリュー・マコーニーの演出・振付も、コングが出ていない場面ではテンションが下がり気味。要は、コングの存在が大きすぎるということに尽きるのだろう。
「スパイダー・マン」の7500万ドルに次ぐ予算3500万ドルを投じたこのスペクタクルの製作は、恐竜ショーで知られるオーストラリアのグローバル・クリーチャーズ。「ムーラン・ルージュ」、「ダンシング・ヒーロー」とバズ・ラーマン監督映画のミュージカル化も手がけ、今後ブロードウェイでひと暴れしようと野心満々のニューフェースだ。
年明けから3月まで割引プロモーション(4枚で196ドルから・詳細はウェブサイト参照)も行われている。お薦めはコングがよく見える1階席。冬休みに家族や友人同士で、屋内テーマパーク的に楽しむにはぴったりの娯楽作品である。(高橋友紀子)

King Kong
■会場:Broadway Theatre
 1681 Broadway
■$49〜
■上演時間:2時間30分
kingkongbroadway.com


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