2020年12月18日号 Vol.388

合言葉「まだまだ油断大敵!」
待望のワクチン基礎知識
〜すくすく会の金原先生に聞く〜(1/3)

「ダークウインター」「1月半ば最悪の状態覚悟」など、この冬のコロナ状況を語るCDC(米疾病管理予防センター)のトーンは暗い。と同時に、ワクチンもいよいよ普及かという段階に入り、長い地獄トンネルの出口がなんとなくでも見えてきた感もある。まだまだ油断大敵という中で、邦人育児支援団体ニューヨークすくすく会(会長・加納麻紀医師)が12月13日(日)ウェビナー「コロナ禍の冬、家族で安全に乗り切ろう」を開催。ここでは金原聡子先生(内科・小児科)の発表から、ワクチンについてと、冬の安全アドバイスをまとめた。しっかり知識を蓄え、無事新年を迎えよう。(聞き手:ささききん)

※ウェビナーでは、陳佳奈先生(内科)が学校での安全対策と検査についても解説。YouTube(https://youtu.be/QT5moh-bPH0)で視聴可能。



▼新型コロナウイルスのワクチンについて、概要を教えてください。
金原:FDA(米食品医薬品局)から「緊急使用許可」が降りているのが、製薬会社ファイザー(Pfizer/BioNTech)開発のワクチンです。各州の人口に比例した数のワクチンがすでに配付されています。モデルナ(Moderna)のワクチンも、許可が降りるまで秒読み段階(12月14日現在)。この2つはとてもよく似たワクチンで、同様のメカニズムで体に抗体を作ります。

ただ、ファイザーのワクチンは超低温(摂氏マイナス60〜80度)での保存が必要で、大病院ならその設備もありますが、開業医のクリニックでは保存が難しく、導入が困難になります。ワクチン移送中の温度管理も難しく、コストもかかるはずです。モデルナのワクチンは、通常の冷凍保存で大丈夫です。

もう一つ、まだFDAへの申請には至っていませんが、もうすぐだろうと言われているものに、アストラゼネカのワクチンがあります。その他にも50種類以上が臨床試験段階まで到達しているので、今後さまざまなワクチンが出てくると思います。

▼FDAの「緊急使用許可」とは? 普通の認可ではないのですか?
金原:通常のワクチンは、開発からFDA認可まで数年から10年はかかります。今回は、開発からわずか10ヵ月と短期間です。しかし、パンデミックがあまりにも深刻なため、臨床試験で安全性と効果が証明されたのであれば、一刻も早く接種を開始すべきとの判断で、「緊急使用許可」という形で認可されました。これによって、感染率を劇的に下げることが期待されています。最終的な認可が降りるまでにはもう少しかかると思います。

わずか10ヵ月で開発できたのは、医療分野でのテクノロジーの発達に加え、新型コロナは感染者数が多いので、データを集めやすかったからです。患者数が少ない感染病の場合は、こうはいきません。

▼どのようなワクチンですか? メカニズムは?
金原:ファイザーもモデルナも、mRNAという遺伝子を使った新しいタイプのワクチンです。弱化したウイルスを使う生ワクチンではないので、接種したことによってコロナに感染することはありません。

一言でいうと今回のワクチンは、mRNAという遺伝子により、新型コロナウイルスの表面にある『トゲトゲ』のタンパク質を、体内で一時的に作るように促すワクチンです。それによって、体に『トゲトゲ』に対する抗体が作られ、体内に侵入したウイルスを退治する仕組みです。ワクチンにより体内に注入したmRNAは、数日で体内で壊されるので、個人の遺伝子に影響を与えることはありません。



▼標的はあの表面の突起物「トゲトゲ」?
金原:そうです。コンピューターのフェース・レコグニション(顔の認識)に似た機能といえばわかりやすいでしょうか。このワクチンによって、新型コロナウイルスの「顔」、つまりあの『トゲトゲ』を体が識別し、外敵とみなして攻撃できるようにしてやるのです。このワクチンに含まれるmRNAは、『トゲトゲ』タンパク質を作るための材料で、それを体内に入れることで、『トゲトゲ』に対する免疫が作られるという仕組みです。

もっと噛み砕いて言うと、このワクチンは体が『トゲトゲ』を見たら「コロナだ!」とわかってすぐ反応できるように、免疫をトレーニングします。表面の『トゲトゲ』を認識できれば、ウイルスの侵入に即時に気付いて処理でき、感染を防ぐことができます。またもし感染したとしても軽症で済みます。

人間の免疫システムが、自力でウイルスの抗体を作るには時間がかかるので、ワクチンで助けてやると思ってください。(次ページへ)

1 > 2 > 3
<1/3ページ>



HOME